こんにちは、アラサーMRのヒサシです。
つい先日、医薬品卸の大手4社(通称:4大卸)の2020年上半期の決算結果が出揃いましたね。
談合疑惑、熾烈な価格競争、コロナ禍の影響など、4大卸にとっては逆風が吹き荒れた上半期でしたが、その過酷さが決算内容にも反映される結果となりました。
有価証券報告書などを見て各卸の状況などに目を通してみましたが、とにかく営業利益率がヤバい。
何がヤバいって、2019年上半期と比べて4社とも医薬品卸売事業の営業利益率が1/3~1/4くらいにまで減少しています。
後ほど詳しく紹介しようと思いますが、4社とも売上高はそれほどダウンしていません。
…にも関わらず、営業利益だけが大幅ダウンしているのです。
MRとして働く傍ら、各卸のMSと会話する際に『価格競争が激しすぎて利益が取れない』とよく聞いていましたが、その悲鳴が決算にも反映されていることが窺えます。
たったの1年でここまで業績が悪化するのかと驚いたくらいです。
とある卸では『今年はボーナスが出ない』という噂も囁かれているようですが、あながち嘘ではないのかも知れませんね。
以前ブログ内で4大卸の一角であるメディセオのリストラ記事を書きましたが、リストラの根底にあるのはGSKとの取引中止とかではなく、一番の理由はここ最近での業績悪化が原因だったのかと思いました。
メディセオが希望退職者を募集!製薬メーカー数社との取引中止が関係しているのか?
そう考えると、他の4大卸であるアルフレッサ・スズケン・東邦もかなり危険な状況だとも言えるでしょう。
そこで、今回は私自身のMRとしての視点も交えながら4大卸の決算内容について書いていきます。
4大卸の営業利益率が過去最低を更新!?
この業界で働いている人ならご存知の通り、医薬品卸の営業利益率は1%程度です。
このブログでも何度も述べてきた通り、医薬品卸は薄利多売のビジネスを行っています。
1兆円の売上高があったとして、そこから人件費などを含めた販管費を差し引き、そして残った営業利益は約1%にあたる100億円ほどなのです。
とはいえ、売上高が巨大すぎるため、このくらいの利益率でも会社として存続する分には特に問題ありませんでした。
しかし、それも去年までの話です。
おそらくですが、ここまで医薬品卸の営業利益が落ち込んだことは過去に類がないことと思います。
とりあえず、最近の業界誌などを見て2020年の上期(4月~9月)における4大卸の売上高や営業利益についてまとめてみました。
(※金額は百万円単位で記載しています。)
会社名 | 売上高 | 営業利益額 | 営業利益率 |
アルフレッサHD | 1,135,654
(▲5.5%) |
5,973 | 0.53%
(▲1.14%) |
メディパルHD | 1,030,401
(▲4.3%) |
3,549 | 0.34%
(▲0.85%) |
スズケン | 999,740
(▲6.6%) |
-179 | 記載なし |
東邦HD | 572,708
(▲6.1%) |
1,844 | 0.32%
(▲1.01%) |
とにかく、営業利益率がヤバい。
メディパルHD以外の卸は去年と比べて1%以上ダウンしています。
それに伴って、営業利益額もヤバいことになっています。
特に、スズケンに至っては営業利益額がマイナスです。
約1兆円もの医薬品の売上がありながらも、何と1億8000万ほどの営業損失を出しています。
約1兆円も薬を売りまくった結果が赤字ってヤバくないですか。
ちなみに、2019年の上期(4月~9月)におけるスズケンの営業利益額(医薬品卸売事業)は約124億円でした。
たった1年で営業利益額が124億円⇒マイナス2億円弱まで減るって尋常じゃないです。
私もそれなりに長く医薬品業界で働いていますが、こんな決算結果は見たことがありません。
実際、最初にミクスや日刊薬業の記事を見たときは自分の目を疑いました。
まあ、スズケンだけがアルフレッサHD、メディパルHD、東邦薬品の3社とは営業利益額が明らかに異なりますので、流石にこれは何らかのカラクリと言うか、特殊な算出方法をしていることが窺えます。
とはいえ、いずれにせよ利益的に厳しい状況にあるのは間違いないでしょう。
スズケンは高薬価のスペシャリティ医薬品流通に力を入れたビジネスを展開していますから、個人的にはこの決算結果は予想外でした。
以前、スズケンによるキムリアやゾルゲンスマの1社流通に関する記事を書きましたが、そういったスペシャリティ事業が上手く行っていないでしょうか…。
ノバルティスの『キムリア』はスズケン1社流通!この戦略の意味とは?
ゾルゲンスマの国内流通はスズケンが受託!スペシャリティ医薬品に特化したビジネスの真骨頂か?
さて、スズケンも含めて4社とも売上高はそれほど下がっていません。
ダウン率はせいぜい4~6%に留まっていますからね。
とはいえ、如何せん売上高が巨大すぎるために4~6%ダウンでも金額的には大きな影響があります。
この売上高ダウンの元凶は、何と言ってもコロナ禍でしょう。
GP市場を中心に受診抑制が起こり、それに伴って売上減少があったのは間違いありません。
実際、私も4月~6月くらいに近所の開業医に行った際、患者が全然いなくて静まり返っていましたからね。
ただし、この売上高ダウンの影響についてですが、正直なところ会社が傾くほどではないでしょう。
コロナ禍でのダメージは受けたものの、各医薬品卸にとって致命傷と言うほどではなかったということです。
(※もしこれで売上高が20%とか30%とかダウンしていたら致命傷だったかも知れませんけど。)
では、なぜ営業利益には大きな影響が出たのか?
それには後述する『仕切価の上昇』と『価格競争の激化』が関わっています。
仕切価の上昇による影響
おさらいですが、仕切価(しきりか)とは製薬メーカーが医薬品卸に薬を売るときの金額です。
そして、医薬品卸におけるビジネスの根底には『安く仕入れて高く売る』という考え方があります。
医薬品の販売における『売差(ばいさ)』とは?現役MRが解説します!
よって、医薬品卸の立場で考えると仕切価は安ければ安いほど良いのです。
しかし、製薬メーカーはそれを許さない。
当たり前の話ですが、製薬メーカーからすれば仕切価が高いほど自社の利益に繋がります。
製薬メーカーとしては高い金額で薬を卸したいけど、医薬品卸は少しでも安い金額で薬を仕入れたい。
この相反する考えの違いから、製薬メーカーと医薬品卸は会社同士で交渉を行っています。
(※余談ですが特にその交渉が顕著なのは薬価改定の時期であり、卸もメーカーも会社の本部同士で、結構エグい交渉バトルを行っているそうです。)
さて、MRはもちろんMSの皆さんもご存知の通り、製薬メーカーはここ数年ほど各社がリストラをしまくっています。
理由は単純明快で、経営が苦しいからです。
よって、販管費カットのために人員削減に励んでいるのです。
こんな具合に自社の手足を泣く泣く切り取るような政策を打っている製薬メーカーが、医薬品卸への仕切価を引き上げないわけがありません。
当然のことながら、医薬品卸に対する仕切価を上げれば自社の利益に直結するわけですから、製薬メーカーが仕切価を改善したいと思うのは当然のことです。
いかがでしょうか?
2020年春の薬価改定では、きっと各製薬メーカーが各医薬品卸相手にこのような気概を持って仕切価の交渉に臨んだことでしょう。
ところで、製薬メーカーの名誉のために補足しておきますが、製薬メーカー側だって医薬品卸のことが憎くて仕切価を釣上げているワケではないのです。
製薬メーカー側だって、会社として生き残るために必死なのです。
組織の末端で働いている私のようなMRですらそのように感じられるほど、製薬メーカーはコストカットのために血眼になっています。
よって、どこの会社のどの製品がとは言いませんが、従来よりも高額な仕切価に落ち着いた医薬品は山ほどあるワケです。
つまり、結果だけを見れば製薬メーカー側に有利な仕切価設定をされてしまったお陰で、医薬品卸は今まで以上に利益を稼ぎにくくなってしまったというワケです。
知り合いのMS何人かに話を聞いても、薬価改定に伴って仕切価が高めに設定され、今まで以上に利益が出なくなったと皆さん口を揃えていっています。
この仕切価による影響が、今回の決算数字に反映されているのでしょうね。
数字は嘘を吐きません。
後述する価格競争と相まって、この仕切価の上昇が医薬品卸を苦しめているのは間違いないです。
医薬品卸同士の価格競争が激化した影響
2019年11月に4大卸による談合問題が発覚して以降、全国各地で価格競争が激化したのは間違いありません。
この一件が切っ掛けとなり、業界内の価格事情が大きく変わったのはMS・MRの皆さんならご存知の通りです。
よって、現在では談合問題の発端となったJCHO系列の病院だけでなく、その他の施設においても正当かつクリーンな価格競争が行われていることでしょう。
さて、件のJCHO系列の病院に限って言えば、今年から地場卸も入札に参加しています。
JCHOの入札方法変更について地場卸のMSはどう思っているのか?
それはつまり、従来よりも多い業者数で入札を行う(=価格競争の相手が増える)ことを意味しています。
おそらく、JCHO以外でも同じような状況の施設は全国各地に溢れているはずです。
つまり、市場の原理を考えると今まで以上にライバル同士で医薬品の帳合を奪い合う展開になるのは必至です。
実際、弊社の医薬品も納入卸が安定せず、常に帳合が移り変わっています。
例えば、とある医薬品について9月は卸Aから納入されていたけど、10月からは卸B、そして11月に入ったら卸Cから納入されるようになった…という感じですね。
このように私のようなMRの目から見ても、今まで以上に医薬品卸同士で帳合を奪い合っていることが窺えます。
例えば、薬価が1000円、仕切価が800円の医薬品Aがあるとします。
そして、その医薬品Aを900円で医療機関に納入している卸Aがいるとします。
このような場合、他卸の価格攻勢によって帳合がすぐにひっくり返ります。
今に始まった話ではありませんが、このような医薬品Aを1つとっても、各卸による壮絶な価格競争が繰り広げられているのです。
これはあくまで一例ですが、MSの営業現場ではこういった価格競争があちこちで起きていることでしょう。
談合問題以前からこのような価格バトルは頻発していましたが、現在ではより一層ヒートアップしています。
こんな状況では、医薬品卸が利益を確保するのは至難の業です。
それこそ、元から卸は1社取引の施設で、なおかつ優秀なMSが担当しているような場合でなければ、まとまった金額の利益は出ないでしょう。
少なくとも、私がMSだったら他卸からの価格攻勢に耐えられる自信はありません。(汗)
さて、この状況が続くとどうなるでしょうか?
医薬品卸各社が利益を確保できず、会社として共倒れする事態に陥ります。
4大卸における2020年の上期(4月~9月)の決算結果は、まさに『共倒れ』の前兆とも呼べる状態を表しています。
医薬品卸は経営が苦しくなり、製薬メーカーは市場実勢価格の下落により薬価ダウンの憂き目に遭う。
医療機関側としては医薬品を安く買えるので万々歳でしょうが、少なくとも医薬品卸・製薬メーカー共に、今の状況は望ましいものではありません。
このままでは医薬品卸・製薬メーカー共にジリ貧になるのは明白です。
最後に:今後、業績悪化が続けば各医薬品卸でのリストラは避けられない?
繰り返しになりますが、医薬品卸を取り巻く環境は悪くなる一方です。
談合問題によるイメージダウン、コロナ禍、仕切価の上昇、終わりの見えない価格競争。
経営に差し支える悪条件のオンパレードである一方、各卸ともに今の状況を好転させる材料には乏しい印象です。
実際、4大卸の経営陣は今の状況を憂慮している声明を発表しています。
アルフレッサHD・荒川社長 メーカー仕切価アップと医療機関の経営悪化に伴う価格下落で営利大幅減
メディパルHD 新型コロナで環境激変 デジタル投資やPMS事業で収益回復モデル構築へ 20年度上期決算
スズケン・宮田社長 「これまで経験のなかった厳しい価格交渉」 下期は不退転の決意で交渉に臨む
東邦HD・有働社長 「かなり市場が乱れた」 仕切価と薬価差の拡大で利益は約1%悪化
4社とも減収減益の直接的な要因としてコロナ禍を挙げていますが、正直言ってコロナ禍が終息したからと言って、経営状態がコロナ前と同じ水準に戻るとはとても思えません。
こういった声明発表を見て、『医薬品卸の将来は明るい!』と感じている人がどれほどいるでしょうか?
この状況で未来に希望を持っている人は、どう考えても少数派ではないでしょうか。
コロナの脅威が去ったとしても、仕切価上昇や価格競争といってマイナス要素は今後も改善されないでしょうし、むしろこの2点によるダメージの方が深刻とさえ思えます。
4社とも生き残りをかけて各々の戦略を打ち出していますが、その骨子は未だに『製薬メーカーからのフィー(報酬)』に依存しています。
率直に言わせてもらうと、これは旧態然としたビジネス戦略です。
この記事内でも述べた通り、製薬メーカーもコストカットに励んでいます。
製薬メーカー頼みのプランを組み立てるのは自由ですが、このような状況だと見通しは暗いのではないでしょうか。
いかに製薬メーカー側からフィーを引き出すか?
…という視点に立っているうちは、ハッキリ言って医薬品卸にとっては厳しい経営状況が続くと思います。
少なくとも、製薬メーカーでMRとして働いている私にとしては、MRが次々とリストラされているこの状況で気前よく医薬品卸にフィーを支払うような殊勝なメーカーが多くいるとは思えません。
さらに言うなら、
製薬会社としてコストカットしたければ、まず優先順位を考えろ!
MRをリストラする前に、その他のコスト(医薬品卸に支払うカネなど)から見直しやがれ!
…などと思っている自分がいます。
まあ、これは一介のMRである私の個人的意見に過ぎませんが、医薬品卸からのフィー要求について、製薬メーカーの経営陣はどう思っているのでしょうね。
予想ですが、あまり快く思ってはいないのではないでしょうか?
…となれば、医薬品卸が経営的に今後も苦しむことは容易に想像できます。
そして、そういった状況が続けば、今度はリストラを行って販管費の見直しを行う可能性大です。
先日のメディセオグループにおけるリストラ発表は、まさにその先駆けだったのかも知れませんね。
終身雇用という言葉そのものが死語になりつつあるご時世ですし、リストラへの警戒は怠らないようにした方が良さそうです。
今後も医薬品卸・製薬メーカーの両方を注意深く見ていこうと思います。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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