こんにちは、元MSのヒサシです。
医薬品卸にて頻繁に使われている『得意先』という言葉。
簡単に言うと、自社と取引をしている顧客を指す言葉です。
これはMSだけではなく、事務・倉庫係・配送・管理薬剤師、さらには管理職(所長や部長)までもが使っている言葉です。
これは一体なぜなのか?
医薬品卸にて働いている人たちが、顧客のことを『得意先』と呼ぶ理由とは何なのか?
こういった事に関して、皆さんは考えたことがあるでしょうか?
私がまだMSとして働いていた頃は、こんなことに疑問を感じたりはしませんでした。
『得意先』は『得意先』であって、それ以上でも以下でもない。
率直に言うと、その程度の認識しか持っていませんでした。
その一方で、新人MSだった頃には得意先の重要性について、これでもかと上司・先輩から叩き込まれたものです。
卸は、得意先のために貢献することが大切である。
MSは、得意先に評価されてナンボである。
このような言い回しが常日頃から飛び交っており、それが普通の環境だったんですよね。
そのせいか、私は医薬品卸に入社した直後から、開業医や調剤薬局のことは全て『得意先』と呼んでいました。
“郷に入れば郷に従え”という言葉もありますからね!
しかし!!!
私は製薬会社のMRに転職して以降、周囲にいる人たち(上司や同僚MRなど)の口からは『得意先』という言葉を殆ど聞かなくなりました。
病院や調剤薬局といった施設のことを『得意先』と呼ぶMRは、ゼロではないにせよ、圧倒的少数派です。
少なくとも、私自身のMR経験上はそうです。
そこで、私はこう思いました。
なぜ医薬品卸は『得意先』という言葉を好んで使っていたのだろうか?…と。
MS(医薬品卸)を辞めた今だからこそ、かつて所属していた職場で使われていた『得意先』という呼び方について疑問が湧いてきたのです。
ぶっちゃけた話、このテーマについては明確な正解なんて無いかと思います。
ですが私個人としては、医薬品卸に特有の“顧客至上主義”や“自己犠牲精神”などが『得意先』という3文字に込められている気がしてなりません。
そこで、この記事では私自身のMS経験に基づいて、医薬品卸における『得意先』という呼称についての考察を綴ってみました。
興味のある方はご一読いただければ幸いです!
『得意先』の意味
皆さんは得意先という言葉について、辞書で調べたことがあるでしょうか?
あるいは、類語である『取引先』との違いについて、調べたことがあるでしょうか?
医薬品卸では何となく使われている感じもある『得意先』という言葉。
そこで、これも良い機会だと思いまして、得意先という3文字の意味だけでなく語源まで徹底的に調べてみました。
以下、得意先に関する情報です。
いかがでしょうか?
ザックリまとめると『取引先』という大枠の中に『得意先』が含まれている…という感じですね。
さらに言葉のニュアンスとして、得意先という言葉には単なる顧客ではなく『自分(自社)を親しい商売相手』という意味合いが含まれています。
このことから、得意先とは『顧客のことをポジティブに解釈した言葉』であることが窺えます。
ただし、こういった解釈には明確な正解が存在しないようです。
よって、ただ単に『顧客=得意先』と捉えても間違いではないと言えます。
こうして見ると、日本語って難しいですね…(汗)
医薬品卸は全ての顧客を『得意先』にしたい?
現役MSのみならず、医薬品卸の従業員であれば知っての通り、医薬品卸の顧客は様々です。
代表的なところだと、病院・開業医・調剤薬局など。
ちょっとマイナーなところだと、歯科医院や老健施設。
このように、医薬品卸が薬(商品)を卸している相手は色々なのですが…
これらの顧客たちについて、なぜか医薬品卸の人たちは『得意先』と呼ぶんですよね。
これは営業職であるMSだけでなく、事務や倉庫係といった内勤の人たちにも当てはまります。
少なくとも、私がMS時代に働いていた医薬品卸ではそうでした。
月平均の売上が1,000万円の病院。
月平均の売上が500万円の開業医。
月平均の売上が100万円の調剤薬局。
月平均の売上が10万円の老健施設。
月平均の売上が1万円の歯科医院。
どれもこれも、全ての施設を『得意先』と呼ぶ医薬品卸の従業員たち。
MS時代は大して気にしたことが無かったのですが、今ではちょっと不思議に思っている自分がいます。
これも医薬品卸の社風だと言ってしまえば、それまでの話ですが…
なぜ医薬品卸では顧客のことを『得意先』という呼び名で統一しているのでしょうか?
だって、ただ単に薬(商品)を卸している相手のことであれば、別の呼び方だってあるワケじゃないですか。
例えばですけど、販売先とか、取引先とか、ユーザー様とか。
…にも関わらず、医薬品卸では得意先という言葉が頻繁に使われています。
しかも、売上の多寡なんて関係なく…です。
付け加えると、嫌がらせまがいの無理難題を突き付けてくる施設さえも『得意先』と呼ぶときた。
詳しくは下の記事を読んでほしいのですが、医薬品卸に辛く当たるような施設って本当に多いんですよ。
MS時代に体感した“厄介な取引先”の特徴5選!彼らの悪意に振り回されてはダメだ!
得意先という言葉の定義を考えると、卸側を苦しめる施設までも『得意先』と呼ぶのは、少しばかり変ですよね?
(※タチの悪い病院や薬局であっても、顧客であることに変わりはないですが。)
それなのに、なぜ医薬品卸では付き合いのある顧客全てを『得意先』と呼ぶのでしょうか?
このテーマについて、ハッキリ言って正解なんて無いと思います。
ですが、おそらく正解が無いからこそ、ここでは自分なりの考察を述べてみようと思います。
『得意先』という呼び方を好んで使う従業員たち。
そして、その現状を容認(または肯定)している医薬品卸という業種。
顧客の売上や性質を問わず、全ての相手方を『得意先』と呼ぶのはなぜか?
私が思うにですが、それは医薬品卸が全ての顧客を“自社の上客”にしたい…という意思の表れではないかと思うのです。
上客とは“特に大切なお客さん”という意味です!
ご存知の通り、卸同士の競争は熾烈です。
常日頃から【帳合】を奪い合い、互いに鎬を削る。
他卸には何としても負けられない戦いが、そこにはあるワケです。
競争へと身を投じ、そして結果を出す。
そうしなければ、卸として生き残れない。
そんな環境要因があるからこそ、医薬品卸は少しでも多くの顧客のことを“上客”へと昇華させ、自社の繁栄へと繋げていきたいと考えている。
太い客だろうと、細い客だろうと、そんなことは一切関係ない。
目の前の顧客を、何としても捕まえておきたい。
どれだけ時間がかかろうとも、最終的には自社にとっての“上客”としたい。
そんな企業思想の一端が、もしかしたら『得意先』という呼び方に集約されているのかもしれません。
もちろん、これは私の勝手な解釈です。
この説の根拠はと言えば、MSとして過ごした当時の経験のみですからね。
従いまして、この意見が絶対に正しいなどとは微塵も思っていません。
ただし、あながち的外れだとも思いません。
医薬品卸の社内にて飛び交っている『得意先』という呼び方。
読者の皆さんは、どのようにお考えでしょうか?
もし良かったら、この記事の下部にあるコメント欄に何らかのご意見をいただけると嬉しいです!
MS特有の自己犠牲精神
先ほどは『得意先』という呼び方について、医薬品卸という業種の企業文化から考察してみました。
そこで今度は、MS(営業職)の仕事内容に焦点を当てながら考えていきたいと思います。
なぜ医薬品卸では『得意先』という呼び方が定着するに至ったのか?
これまた私なり解釈なのですが、それはMSが顧客のために“尽くし過ぎる姿勢”も影響していると思うのです。
誤解の無いようにお伝えしておきますが、ただ“尽くす”のではありません。
MS本来の業務範囲を超えて“尽くし過ぎる”ことが関わっているのです。
このブログでも幾度となくお伝えしてきましたが、MSの仕事は大変です。
【急配】【返品】【出荷調整】など、過剰サービスと言っても過言ではない仕事も多いです。
では、なぜMSはここまでして頑張るのか?
ともすれば、なぜ自分自身を犠牲にしてまで相手に尽くすのか?
その理由の1つとして、現在取引をしている顧客を“上客と呼べるレベルにまで引き上げたい”という意識が働いているからではないでしょうか?
売上が少ない病院ならば、自社の売上がアップするように努力する。
売上が多い開業医ならば、自社の売上が維持できるように尽力する。
取引がない調剤薬局ならば、自社と取引してくれるように注力する。
そのために顧客へとアピールする要素として、例えばですが急配・返品・出荷調整などを介したサービス精神で他社との差別化を図ろうとしているのだと思います。
サービス精神と言えば、聞こえは良いかもしれません。
ですが、実質的には自己犠牲的な側面を含んでいます。
場合によっては“自棄”という感情に近かったりもしますからね。
私自身がMS時代に経験したところだと、以下のような“サービス”があります。
・グループ調剤間での荷物の配達
・調剤薬局での棚卸の手伝い
・開業医でのゴミ捨て
・流木を鑑定するための手伝い
いかがでしょうか?
ハッキリ言って、これらは完全にMSとしての業務範囲外です。
早い話、労務提供というヤツです。
しかも、ゴミ捨ては早朝、棚卸の手伝いは夜間での時間帯。
要するに、自分にとってのプライベート時間を削っていたワケです。
そして当然ことながら、会社からの時間外手当などは一切ナシ。
そして何よりも恐ろしいのは、当時の私は“MSにとってはそれが普通である”と本気で思っていたという点です。(汗)
あの頃の価値観はバグっていた気がしてならない…
今振り返ってみると、あそこまでして顧客のために尽くしたこと自体、やり過ぎだったように思えます。
ただ、これらはMSとして、まだ生温い方だとも思うのです。
私の先輩MS、あるいは同じエリアの他卸MSは以下のようなことまでやっていました。
・5日連続での飲み会幹事(5日とも全て別施設)
・麻雀大会の幹事
・開業医の息子さんの引っ越し手伝い
・薬局長のお父さんの葬式での受付係
いかがでしょうか?
ここまで来ると、労務提供と呼ぶことすら憚られます。
特に、引っ越し・葬式に関しては、もはやMS(医薬品卸)ではなく別の業者といった感じですよね。
これら全てに共通しているのは、MSの“自己犠牲精神”は凄まじいという点です。
いくら顧客のためとはいえ、ここまでする営業マンが世の中にどのくらいいるでしょうか?
家族との時間、友人との時間、趣味の時間。
それらを犠牲にしてまで、顧客のために尽くすMSたち。
何としても顧客に気に入ってもらい、そして自分(自社)にとっての上客としたい。
要するに、本当の意味で『得意先』にしたい…ということです。
そのためならば、顧客のことを崇め、身を粉にする事すら厭わない。
”貢献”という域を超え、もはや“奉仕”という域にまで達している。
いわゆる“顧客至上主義”と呼んでも過言ではないレベルの献身。
単なる顧客への接し方という意味では、どう考えても一線を超えているような気がしてなりません。
この辺りからも、MSひいては医薬品卸が『得意先』という呼び方を好んで使う企業文化が、少なからず影響しているのかなぁと思うワケです。
最後に:『得意先』という言い方の功罪について
“お客様は神様だ”
…という言葉があります。
具体的には、全ての顧客を同列に並べて、しかも例外なく優遇しようとする考え方ですね。
何となくですけど、医薬品卸における『得意先』という呼び方に通じる匂いがするのですが…
これって、果たしてどうなんでしょうか?
会社にとって優良な顧客であれば『得意先』と呼んでも差し支えないと思います。
それこそ、売上・利益を自社もたらしてくれる神様みたいなものですからね。
その反面、どう考えても『得意先』と呼ぶには値しない顧客もいると思うのです。
そんなタチの悪い顧客をも『得意先』という枠の中に入れることについて、個人的にはちょっと疑問です。
MS時代は全く気にしたこともありませんでしたが、MSを辞めた今だからこそ、『得意先』という3文字について違和感を覚えることがあります。
どんな顧客であろうと『得意先』という言葉で一括りにする医薬品卸。
あまりにも会社が顧客のことを『得意先』と連呼するものだから、医薬品卸の従業員としては『得意先』の意味を曲解してしまう人もいるのではないでしょうか?
そして、真面目な人ほど『得意先』という言葉のせいで悩むのではないでしょうか?
こんな具合に、相手が『得意先』だからと自分に言い聞かせ、気持ちに折り合いをつけている人も多いのではないでしょうか?
その考え方自体は、決して間違ってはいないと思います。
ですが、その一方で自分を責め、苦しんでしまう人も一定数いるとも思うのです。
もし自分を苦しめるような顧客であれば、そもそも『得意先』は呼ぶには値しない。
だったら『得意先』という言葉は使わずに、単に販売先とか、取引先とか、そんな呼び方をしても良いと思うのです。
従いまして『得意先』という言葉は、本当に優良な顧客に対してのみ使うのが相応しい。
私個人としては、そのように考えてしまいます。
自分の中で、顧客についての“線引き”をしても良いと思うのです!
医薬品卸による顧客を囲い込もうとする熱量には、ぶっちゃけ凄まじいものがあります。
それは会社として、業績を向上させるという意味では確かに正しいのでしょう。
ただし、その裏側では従業員たちに自己犠牲を強いるような風潮も存在しています。
そんな企業文化の功罪が『得意先』という3文字に凝縮されている。
元MSとしては、そんな気がしないでもないです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
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