こんにちは、アラサーMRのヒサシです。
今回は私がMS時代に廃棄処分にしてしまった薬剤『ケナコルト-A筋注用』についての話をします。
まず初めに、この記事を読んでいる現役MSの皆さんにお伝えしたいことがあります。
ケナコルトを冷所に放置してはいけません!
もし冷所に放置してしまったら最後、そのケナコルトは廃棄処分にするしかありません。
詳しくは後述しますが、マジでこれは確定路線です。
そして廃棄処分ともなれば当然、上司(会社)からメチャクチャ怒られます。
つまり、MS時代のヒサシと同じ末路が待っているのです!(汗)
とある寒い日、私は取引先の病院からケナコルトの返品を受けました。
その後、ケナコルトの現物を営業車に置いたまま、さらに数軒の施設にて営業活動うこと数時間。
そして帰社したところ、ケナコルトは冷所に放置してはいけない薬剤だったことが発覚。
泣く泣く廃棄処分にせざるを得ませんでした。
そうならないためにも、ケナコルトの取り扱いには十分に注意してください!!
では、なぜケナコルトを冷所に放置してはいけないのか?
どういった経緯でヒサシは上司(会社)から怒られたのか?
そこで、ケナコルトに関わる苦い体験談を語っていこうと思います。
『ケナコルト-A筋注用』とは?
私は先ほどから単に『ケナコルト』と呼んでいますが、正式名称は『ケナコルト-A筋注用関節腔内用水懸注40mg/1mL』です。
(※でも正式名称だと長いので、この後も『ケナコルト』と書かせていただきます。)
さて、そんなケナコルトについて簡単にですが紹介させてもらいます。
ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社
慢性副腎皮質機能不全、関節リウマチ、エリテマトーデス、その他多数
室温保存(寒冷時には凍結を避けること。冷所での保存は推奨されない。)
【取扱い上の注意】
製品を10℃以下で保存すると注射液中に凝集が発生することが報告されている。凍結した製品や冷所で保存された製品は使用しないこと。
貯法・取扱い上の注意については、ケナコルトの添付文書の内容をそのまま載せています。
記事の冒頭で『ケナコルトを冷所に放置してはいけない』と書きましたが、その理由がコレです。
つまり、10℃以下の環境にてケナコルトを放置してしまうと、注射液中に凝集が発生する可能性があり、薬剤としての有効性・安全性を担保できなくなるのです!
有効性・安全性を担保できない。
それはつまり、薬剤としての商品価値が無い状態のことを指します。
当然、そんなモノを医療機関に販売するわけにはいかない。
さりとて、ブリストルに返品を受け付けてもらえるワケでもない。
よって、医薬品卸としては廃棄処分するしかない。
だからこそ、ケナコルトの保管あるいは運搬時には注意が必要なのです!
ちなみにですが、これから紹介するケナコルトの廃棄処分エピソードは、私がMSとして3年目くらいの頃の出来事です。
当然のことながら、当時の私はケナコルトのような特殊な貯法の薬剤が存在することなんて全く知りませんでした。
一般的に、医薬品の添付文書に記載されている『室温』とは、『1℃~30℃』の範囲を指します。
しかしケナコルトの場合、室温保存であるにも関わらず、“10℃以下で保存してはいけない”とは如何なものか。
これでは完全に“初見殺し”ではないかッ!!
こういったケナコルトの特性について、もしかしたらベテランのMSならば知っているのかも知れません。
ですが、少なくとも私は上司・先輩などからケナコルトの貯法について指導を受けたことは一切ありません。
つまり、MSとして3年目だった当時の私にとって、この一連のケナコルト廃棄については避けようのない出来事だったのです。(汗)
発端は病院からのケナコルト返品依頼
当時の担当エリアとしては珍しく路面が凍結するような寒い日のこと。
私はいつものように取引先の病院を訪れ、そしていつものように返品を受け取りました。
その中の1つにケナコルトが含まれていたのです。
先述したケナコルトの貯法のことなど露知らず、私はケナコルトを他の薬剤と同じように【オリコン】に入れ、そのまま他の施設への営業活動に向かいました。
そんなこんなでケナコルトを受け取った後、確か2~3軒くらいは回ったと思います。
さて、当たり前の話ですが、私が他の施設に入っている最中、営業車の中は無人です。
つまりその間、営業車の中はキンキンに冷えていたのです。
少なくとも、ケナコルトの貯法デッドラインである10℃を下回っていたことは間違いありません。
そんな感じで1日の営業活動を終え、営業所に帰社したヒサシ。
オリコンからケナコルトを含む薬たちを取り出し、いつものように返品処理の仕事に取り掛かります。
あー、相変わらず返品の仕事は面倒くさいなぁー
そんなことをボヤきながら返品の手続きを行っていたヒサシ。
そんな時、たまたまケナコルトの外箱に記載されていた一文に目が留まりました。
この一文を読んで、私の頭の中は徐々にフリーズしていきました。
そして、自分がヤバい状況に立たされていることに気付いたのです。
こういうとき、悪い予感は当たるものです。
私はケナコルトを倉庫の隅に置き、自分のデスクでケナコルトについて詳しく調べてみることにしました。
そして、PCを立ち上げてケナコルトについて調べること数分。
私は初めてケナコルトを10℃以下で保存してはいけないことを知ったのです。
良心 vs 悪心のバトル!!
ケナコルトの貯法について、私にとっては悪い意味で衝撃でした。
それと同時に、返品として持ち帰ってきたケナコルトの“商品価値”が危ういことも悟りました。
ちなみにですけど、このときケナコルトは外箱に入っている状態でした。
よって、実際にケナコルトの注射液中で凝集が起きている(=有効性・安全性が失われている)かどうか、肉眼で確認することは出来ません。
つまり、凝集が起きているかも知れないし、起きていないかも知れない。
しかし、当日の寒さや営業車に置いておいた時間などを考えると、凝集が起きている可能性は低くないように思えました。
じゃあ、箱を開けて中身を確認してみるか?
いやいや、それはそれで有り得ない。
理由はどうであれ、医薬品卸の人間が薬剤の箱を開けてしまった時点で、どの道その薬剤の商品価値はゼロになるのだから。
そうなれば当然、再販も何も出来なくなる。
だったら、自分はMSとしてどうすれば良いのか?
私は倉庫のケナコルトを見つめながら途方に暮れました。
正直に言うと、私はこのときケナコルトをこのまま返品処理するべきかどうか迷っていました。
もっと端的に言うと、自分の心の中で天使と悪魔がせめぎ合っているような状態です。
いやー、今思えばゲス過ぎる考え方ですね。(汗)
当時の記憶を思い出しながらこの記事を書いているのですが…
これはもうMSとして、いや社会人として、そりゃ絶対にダメだろって感じですよね。
どこからどう見ても、人道に反している。(汗)
しかし、このとき私はキチンとした良心も持ち合わせていました。
こんな感じで、良心の声にも耳を傾けたヒサシ。
“渇しても盗泉の水を飲まず”と言うように、ここで不義を働くのは絶対に間違っている。
…というワケで、最終的には自分の良心に従うことにしました。
確かに上司に怒られるのはイヤです。
でも、怒られる云々よりも“人間として大切なこと”ってあるじゃないですか。
それに、もしここで何食わぬ顔をしてケナコルトの返品処理を行ってしまったら、何と言うか、超えてはならない一線を超えてしまいそうな感覚もありましたし。
今振り返ってみると、やはりあのとき、良心に従って良かったと思っています。
上司からは当然の如く怒られた
医薬品卸において、廃棄処分の薬剤が1つ発生するだけでも結構なダメージがあります。
このブログで何度も述べてきたことですが、医薬品卸とは薄利多売のビジネスをしています。
薄利多売ゆえに、医薬品卸は利益額というものに対して敏感です。
何と言っても、貴重な利益を食い潰さないために、無駄な経費は徹底的に削るような風潮までありますからね。
医薬品卸が儲かっていない証拠!MS時代に経費削減を強要された体験談
医薬品卸にとって、薬の廃棄処分するなどという展開は言語道断なんですよね。(汗)
医薬品を廃棄処分するということは、その薬をメーカーから仕入れた代金がそのまま無駄になるということです。
言い換えるなら、薬を0円で販売して赤字になるようなものです。
それは即ち、ただでさえ少ない利益額をすり減らす行為でもあります!
そんな事情もあり、廃棄処分の薬剤を出してしまったMSはメチャクチャ怒られるのが定番となっています。
ちなみにですが、当時のケナコルトの薬価は1000円そこそこでした。
たかが1000円。
されど1000円。
医薬品卸にとって、1000円の利益を稼ぐのは結構大変なことなのです。
…というワケで、そんな貴重な約1000円を無駄にしまった私は、案の定、上司から怒られる羽目になりました。
上司からは大体こんな感じで怒られました。(汗)
…とはいえ、私の上司にしてはそれ程キツい口調ではなかったように思います。
もしかしたら、上司もケナコルトの特徴について知らなかったのか。
あるいはケナコルトの保管方法を私に指導しなかったことについて、少なからず負い目を感じたのか。
真相は定かではありませんが、上司としても何か思うところがあったのかもしれません。
勝手な想像だけど、上司もケナコルト絡みで何かを“やらかした”ことがあったのかも…?
私は上司から怒られた直後、取引先からのケナコルト返品処理に加えて、そのケナコルトを廃棄処分にする旨の申請書を書きました。
ヒサシというMSの無知によって、廃棄処分にされる運命となったケナコルト。
上司からの叱責もキツかったですが、ケナコルトという薬にも申し訳ない気持ちになりました。
正直言って、辛かったです。
最後に:寒い時期はケナコルトの保管方法に気を付けよう!
繰り返しになりますが、敢えて言わせていただきます。
ケナコルトを冷所に放置してはいけません!
この記事を書いているのは2020年の1月ですが、全国的に冷え込む日々が続いています。
つまり、ケナコルトを納品するにせよ、返品を受けるにせよ、現物を運ぶMSにとっては要注意な時期です。
この体験談を悪い見本だと思って、同じミスは犯さないでください!
ところで、今さら言うまでもないことですが、MSは多種多様な医薬品を取り扱います。
薬価収載されている医薬品とは約2万種類もありますから、その中には特殊な保管方法が求められる医薬品もあります。
つまり、今回紹介したケナコルトは『特殊な薬剤』の一例に過ぎません。
きっとヒサシも知らないところで、今回紹介したケナコルトのように、特殊な温度管理が求められる薬剤が多少なりとも存在していることでしょう。
MSにとっては悪い意味で伏兵と言うか、とにかく厄介な医薬品たち。
ですが、何だかんだ言って医薬品そのものに罪はありません。
こればかりはMSが自ら意識して、自社で卸している薬剤の保管方法について頭に入れていくしかないと思います。
MSの業務は多岐に渡りますが、この辺りもMSの仕事が大変だと言われる所以なのでしょうね。
MSを辞めた私が言っても詮無い話ですが、MSという職業には何かとしんどいことが多いです。
だからこそ、元MSとしては現役MSのことを今でも陰ながら応援しています!
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
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