全国のMSを苦しめる『急配(きゅうはい)』とは?元MSが経験談を交えて解説します!

MSの仕事

こんにちは、元MSのヒサシです。

皆さんは医薬品卸のMSが行っている『急配きゅうはい』という業務をご存知でしょうか?

医薬品業界における『急配』とは、『緊急で行う薬の配送』や『急に入った配送依頼』といった言葉の略称です。

医薬品卸での勤務経験が無い人にとっては、イマイチ具体的なイメージが湧かない仕事かもしれませんね。

その一方で、MSにとっては『急配という言葉なんて聞きたくない!』と思う人もいることと思います。

ヒサシ
ヒサシ

MSにとって、急配とはまさに“天敵”とも呼ぶべき業務ですからね!

このような記事を書いている私自身も、MS時代には幾度となく急配に苦しめられました。

医薬品卸(MS)が行う業務の中でも、急配は特に過剰サービスとの呼び声も高いですからね。

この急配という存在によって、全国のMSは多かれ少なかれ、今日も苦しんでいることでしょう。

しかし!!!

MSとして働く以上、この急配の業務から逃れることは出来ません。

いつも突発的に発生し、しかも逃げられないことも相まって、ストレスが半端じゃない仕事。

付け加えると、配送に伴う経済的なコストも馬鹿にできない業務。

まさに医薬品卸の努力と犠牲の上に成り立っている行為。

それがMSにとっての『急配』なのです!!

今回はそんな『急配』について、MS時代の実体験を交えながら紹介していこうと思います。

スポンサーリンク

初めに:なぜMS(営業職)が薬の配送を行うのか?

急配について触れる前に、MSと配送業務の関係について確認していこうと思います。

以前、別の記事で『MSは営業職であるにも関わらず、薬の配送も行う』と書いたことがありました。

MSが自ら『薬の配送』を行うのは、簡単に言うと『人手が足りないから』です。

まず大前提としてお伝えしたいのですが、医薬品卸会社には『配送のみを行うスタッフ』がいます。

(※会社によって呼び方は様々ですが、私のブログ内では便宜上『配送職』と書かせてもらっています。)

 

医薬品卸の配送職はキツいって本当?求人内容の裏側について暴露します!

 

さて、配送職には正社員だったり契約社員だったりと様々な雇用形態があります。

ですが、その『薬の配送を行う』という観点から見れば、その仕事内容はほとんど同じです。

配送職という名の通り、病院などの医療機関に薬を届けるのが彼らの仕事です。

なぜこのような配送職という職種が生まれたのか?

これには医薬品卸による『商物分離』という考え方が関わっています。

その昔、医薬品卸は営業(MS)から配送業務を切り離し、営業としての仕事に専念させることを考えました。

そのような経緯を経て、社内にて配送専門のスタッフが配置され、彼らが薬の配送を行うようになったのです。

医薬品卸を含む卸売業では、このような『商物分離』を行っている会社も多いのです。

読者さん
読者さん

いやいや、ちょっと待て!

配送職がいるなら、MSが配送する意味なくね?

…と、疑問に思う方もいると思います。

正直に言うと、私も新入社員の頃に同じことを疑問に思いました。(汗)

実は現実問題として、配送職だけでは対応できない配送業務はたくさんあります。

その最たる例が『急配』なのです!!

具体例を挙げると、こんな感じです。


・配送スタッフが出発した直後、追加の医薬品注文が入り、MSが出動せざるを得なくなる
・配送スタッフが業務終了時刻を迎えた後、緊急での配送依頼が入ってしまい、MSが対応せざるを得なくなる
・早朝、配送スタッフが出社する前に医薬品を持ってこいと取引先から依頼され、MSが事態の収拾にあたる

いかがでしょうか?

配送職が対応できない配送案件とは、医薬品卸にとっては日常茶飯事なのです。

そんなとき、配送の実行部隊として白羽の矢が立つのがMSです。

医薬品を物理的に届けるために、配送職に代わって自ら動く。

これもまた、MSにとっては大切な業務の1つなのです。

ヒサシ
ヒサシ

担当エリアや取引先の性質にもよりますが、1日に何度も急配対応するMSも珍しくありません!

さらに!!!

急配とは少し意味合いが異なりますが、変則的なイレギュラー配送を行うのもMSの務めです。

MSが行うイレギュラー配送とは、例えばですがこんな場合です。


・薬の配送量が多過ぎて配送職だけでは対応できない場合(病院への一括納品など)
・配送ルートから大きく外れた一軒家的な施設への配送
・時間指定された影響で配送職のルート便では間に合わない場合

簡単に言えば、配送職の人たちによる通常業務ではカバーできない配送案件ですね。

こういったイレギュラー的な配送は、基本的にMSに振られることが多いです。

ヒサシ
ヒサシ

要するに、面倒くさい配送案件は全てMSに回ってきます(汗)

もしMSが休みなどで不在のときは、他エリアを担当しているMSが対応することも多いですし。

場合によっては、倉庫係や所長クラスの人間が配送業務へと駆り出されることすらあります。

では、なぜMSを含む医薬品卸の社員たちは、ここまでして配送業務を頑張っているのか?

その答えは単純明快でして、医薬品卸の使命とは『医薬品を安定供給すること』だからです。

医薬品の安定供給。

それは即ち、いつ如何いかなる時も、医薬品の供給(配送)を途絶えさせないという意味です。

ですから、医薬品卸は医療機関から薬の注文を受けた時点で、その薬を届ける義務が生じます。

それが普通の配送だろうと、急配だろうと、医薬品卸は医療機関からの要求に応える必要があります。

従いまして、医療機関の担当者であるMSは常に『薬を安定供給すること』を第一と考えて仕事に臨まなければならないのです。

スポンサーリンク

なぜ急配が発生するのか?

極端なことを言えば、急配発生の原因は全て取引先にあります。

少なくとも、急配とは医薬品卸側から『急配させてください!』などと取引先にアピールするような類の仕事ではありません。

急配が発生する度に、MSは仕事量が増えて大変になりますからね。

以上のことから、MSにとって急配をしないに越したことはないのです。

しかしながら、現実には急配を頻繁に頼んでくる取引先が数多く存在しています。

では、なぜ取引先は医薬品卸に急配を頼むのか?

代表的な理由を挙げると、ざっとこんな感じです。


① 病院にて患者の容体が急変し、緊急薬の在庫が底を尽きそうだから
② 調剤薬局にて在庫していない薬剤の処方箋を持った患者が来たから
③ 特に理由は無いけど、何となく癖で急配を頼んでいる
④ MSあるいは医薬品卸への嫌がらせ

いかがでしょうか?

①と②については、個人的にはまだ理解できます。

取引先だって『患者ありき』で仕事をしているワケですから、不可抗力的な場面だって当然あるでしょう。

よって、私はMSだった頃は①と②に関する急配に関して、それなりに前向きな気持ちで取り組むことが出来ていました。

しかし、厄介なのは③と④です。

意外と思うかもしれませんが、③と④はこの業界内では普通にあります。

少なくとも、私自身はMS時代に③と④を幾度となく経験しています。

とても残念なことですが、取引先によってはMS(医薬品卸)のことを、“便利屋”または”家来”などと勘違いしている節すらあります。

マジで人間性が腐っていると言っても過言じゃないレベルです。


・開業医⇒特に根拠もなく『早めに届けて!』『○○時までに頂戴!』などと平気で時間指定してくる。
・調剤薬局⇒MSの足元を見て『○○時までに届けてくれないなら、お宅への注文を減らそうかな?』などとプレッシャーをかけてくる。
病院⇒医薬品卸に恨みでもあるのか『卸はウチの依頼に応えるのが仕事でしょ?』などと嫌味たっぷりに接してくる。

これらは決して誇張などではなく、全て私自身がMS時代に経験した実話です。

思考停止なのか、人格が歪んでいるのか分かりませんが、上記のような顧客は確実に存在しています。

悪い言い方をするなら、客という立場に胡坐あぐらをかいているような感じです。

ハッキリ言って、先ほどお伝えした①や②なんて可愛いもんだと思えるレベルなんですよ。

こういったタチの悪い取引先からの急配依頼に応えるのは、当時の私にとって凄まじいストレスでしたからね。

ヒサシ
ヒサシ

嫌いな取引先のために、1箱あたり1,000円もしないような薬を急配するときの虚しさは半端じゃなかった!!

…とはいえ、どんなに酷い急配依頼であっても、注文をしてくる以上は“お客様”です。

よって、MSとしては彼らの要求に応える義務があります。

だから辛いのです!!!

どれだけ我儘な取引先であっても、MSとしては無碍むげにはできない。

その事実が、MSのことを苦しめているのです。

ぶっちゃけた話、私がMSを辞めたいと思った理由の1つは、上記のような取引先との関係に疲れてしまったところにあります。

まあ、そんな私の体験談はさておき…

先述した①~④は医薬品卸と取引先が存在する以上、決してなくなることはありません。

取引先が使う在庫管理システムの進化などによって、今後は急配が減っていく可能性はあります。

しかし、急配が完全なゼロになることは決してあり得ないのです。

急配がMSのスケジュールを狂わせる

ここまでお伝えしてきた通り、MSにとって『急配』とは『極力やりたくない仕事』です。

MSも営業マンですから、当然色々なスケジュールに沿って動いています。

アポイントでの取引先訪問。

MRとの同行や打ち合わせ。

その他諸々、MSが行うべき営業活動は枚挙に暇がない。

そんな中で、どこかの取引先から『○○時までに××という薬を持ってきてほしい』という急な依頼をされたらどうなるでしょうか?

急配を含め、配送の仕事は基本的には配送職のスタッフが対応します。

しかし、配送職が手一杯なときはどうか?

繰り返しになりますが、こんなときはMSが仕方なく自分で配送する羽目になります。

私自身、MS時代は急配が入るごとに自分のスケジュールを修正し、ときには元々の予定を完全に投げ出してでも配送対応をしてきました。

不可抗力によって自分のスケジュール変更を強いられる。

そんなこと、MSに限らずほとんどの社会人にとって苦痛に決まっています。

私はその苦痛を何十回、いや何百回と経験しました。

だからこそ、私はMSだった頃は急配という仕事が嫌で仕方ありませんでした。

いや、私の限らず全国で働いている全てのMSが、急配を嫌っていると断言するだけの自信があります。

読者さん
読者さん

いやいや、注文が入って薬が売れるは良いことでは?

…と思う方もいるかもしれませんね。

確かにその意見にも一理あるのですが、MSの立場では決して歓迎できるようなことではないのです。

イレギュラー的な時間指定の注文を引き受けるということは、ある意味では『我儘ワガママな顧客』を相手にしているとも言えます。

もうこの時点で、精神衛生的に良いとは言えない状態に陥ります。

付け加えると、100錠で1,000円程度の薬を1箱だけ届ける…というような急配パターンも少なくありません。

1,000円の薬を届けて発生する利益など、せいぜい数十円ほどです。

逆に、配送にかかる時間・労力・ガソリン代などのコストの方が高くつきます。

ヒサシ
ヒサシ

もし高速道路まで使ったら、マジでETC代だけで赤字になります!

MSにとって、急配のようなイレギュラー対応は大切な仕事の1つです。

医薬品の安定供給という観点から考えても、確かにこれは社会的意義のある行為です。

その反面、そういった使命感だけでは如何いかんともし難いストレスがあるのも事実なのです。

MSが急配に対応できないときは?

繰り返しになりますが、配送職の人々がカバーできないタイミングで薬の注文が入ると、MSが対応せざるを得ない状況に追い込まれます。

…と言うより、MSしか対応できる人がいないのです。(汗)

しかし、MSにも都合というモノがあります。

MRに同行して、取引先との製品説明会に同席したり。

ある病院にて、価格交渉のアポイントがあったり。

こんな具合に、どうやっても急配への対応が出来ないときがあります。

そんなとき、医薬品卸としてはどうするか?

結論としては、この記事の序盤でも書きましたが、場合によっては倉庫係や所長クラスの人間が急配を行います。

しかし、これは医薬品卸にとっては最後の手段です。

倉庫係や所長クラスの人たちだって、それぞれ自分の仕事を持っています。

配送職あるいはMSの代わりに急配への対応をさせられること自体、彼らからすれば不本意なことなのです。

私自身も、やむを得ず倉庫係・所長クラスの人間に急配対応をお願いした後日、社内にてネチネチとなじられた経験があります。


急配の対応はMSの仕事でしょ?
急配の仕事を押し付けられるこっちの身にもなれよ?
おまえ(MS)が取引先に在庫管理をするように依頼しておけば、今回の急配は発生しなかったんじゃないの?

ハイハイ、すいませんでしたね!(怒)

じゃあ、次からはもう助けてくれなくて結構ですよ!!

…みたいな感じで、他職種の人たちと喧嘩してしまったこともあります。(汗)

ヒサシ
ヒサシ

私は当時24歳~25歳くらいだったのですが、今思えば大人げなかったなぁ…と反省しています(汗)

急配の対応を肩代わりさせてしまったことに関して、MSとしては申し訳ないと思っていました。

その反面、こんな風に好き勝手に言われたらやっぱり腹が立つものです。

この辺りは営業所の雰囲気や人間関係次第ですが、ハッキリ言って喧嘩したところでMSが得することは一切ありません。

ですので、上記の経験談は『悪い例』として捉えていただければ幸いでございます。(汗)

まとめ:MSは急配と上手く付き合っていく必要がある

MSとして働く以上、誰もが急配の仕事を経験することになります。

それは100%間違いありません。

担当エリア内の取引先によって急配が多い・少ないといった違いは当然ありますが、急配ゼロの環境で働いているMSは皆無です。

MSとして絶対に避けては通れない業務。

なおかつ、時間的・精神的な負担も大きい業務。

それがMSにとっての急配なのです。

では、MSはどうすれば良いのか?

急配をゼロにできなのなら、急配と上手く付き合っていくしかありません。

無条件で急配を引き受けるのではなく、急配を頻度をコントロールできるような流れを作るのです。

根気強く急配を減らしてもらえるように取引先に交渉してみたり、場合によっては急配を断る勇気を持ってみたり、やり方は様々です。

確かに、注文量を減らすことをチラつかせることで、急配させようと迫ってくる取引先もあります。

しかし、そういったタチの悪い取引先とは距離を置くに限ります。

MS時代の経験を振り返ってみて思うのですが、私はそういったタチの悪い取引先に付き合っても、良いことは何もありませんでした。

注文を減らすぞ』という言葉を真に受けて、不本意な急配を何度も繰り返した時期もありましたが、その結果、心身ともにボロボロになっただけでした。

ヒサシ
ヒサシ

それがMSとして3年目くらいの時期でした!

その後、私は考え方を変え、タチの悪い取引先に対しては敢えて急配を断るスタイルで仕事をしてみました。

結果的に、一部の取引先では売上が減ることにもなりました。

しかし、その分だけストレスも減ったのも事実です。

付け加えると、理不尽な急配依頼をしない優良な取引先に、自分の時間・労力・誠意を集中させることが出来るようにもなりました。

その結果、MSとして4年目くらいの頃には減った売上分をカバーできるくらいには持ち直しました。

私のやり方が正しいかどうかはともかく、こんな具合に、MSは急配とは上手く付き合っていく他ありません。

ヒサシ
ヒサシ

急配をどれだけコントロールできるか?

これもまた、MSとして問われる能力の1つです!

要するに、急配そのものが“悪”というワケではなく、急配を乱発する取引先こそが“悪”なのです。

少なくとも、MSにとってはそうです。

この記事では急配のネガティブな面を強調してしまいましたが…

MSが行う急配によって救われる患者・医療従事者がいるのも事実です。

急配は確かに大変な業務ですけど、薬が足りなくて本当に困っている取引先には、MSとして手を差し伸べてあげるべきでしょう。

以上、MSを取り巻く急配の実態について、少しでも理解していただけたら幸いです!

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

コメント投稿はこちら

  1. タカシ より:

    初めて拝見させていただきました。20年前にMSをしていたものです。業界が20年前と全く変わっていないことにびっくりしております。急配、他卸との厳しい価格競争などなど・・  今でも夢に出てくる 急配の思い出・・・

    • ヒサシ ヒサシ より:

      タカシさん

      コメントありがとうございます!
      急配はMSにとって絶対に逃げられない業務であり、まさに宿命ですよね。

      私もMSを辞めてから5年が経ちましたが、急配で苦しんだときの記憶は生涯忘れることはないと思います。
      全ての医薬品卸が急配を有料化でもしない限り、この業界から急配が消えることはないでしょう。(汗)

      また気軽に当ブログを覗きに来てください!
      よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました