医薬品卸のMSが後発品の発売時に行う活動とは?【読者さんからの質問】

MSの仕事

こんにちは、アラサーMRのヒサシです。

 

先日、ある読者さん(MR)から問い合わせフォームを通じて『後発品が発売された際のMS活動』について質問をいただきました。

 

後発品の発売時、先発品メーカーのMRにとってはこの上なく落ち着かないことでしょう。

 

自社の薬剤がいつ後発品に切り替わるのか?

そもそも、後発品への切り替えを阻止できるのか?

 

こんな不安に駆られるのも無理ありません。

 

その一方で、後発品メーカーのMRは虎視眈々とチャンスを狙っていることでしょう。

 

このように先発品と後発品を取り巻く状況において、医薬品卸のMSはどのように関わってくるのか?

 

ケースバイケースではありますが、私のMS時代の実体験を交えて紹介させていただければと思います。

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MSの活動は先発品の帳合卸かどうかで大きく変わる


後発品の発売時、MSの活動は大きく2パターンに分かれます。

 

1つは、先発品を守るというパターン。

 

もう1つは、後発品で攻めるというパターン。

 

これらのMS活動を分ける要因としては、『後発品の発売時、先発品の帳合を持っているかどうか?』が大きく関わってきます。

 

医薬品に関する『帳合(ちょうあい)』とは?現役MRが解説します!

 

極端なことを言うと、

自社と先発品メーカーの利害が一致しているかどうか?

…ということです。

 

例えば、ある病院(以下A病院)あるとして、基本的な考え方としては以下の通りです。

A病院の先発品を自社から納めている場合

この場合、先発品が後発品に切り替わるのを防ぐのがMSの基本戦略です。

 

一言でまとめると守りの仕事です。

 

ご存知の通り、後発品の薬価は先発品よりも大きく劣ります。

 

つまり、もし後発品に切り替わってしまえば、その分だけ自社の売上・利益が減ることを意味しています。

 

よって、帳合卸のMSは自社から納められている先発品が後発品に切り替わることを恐れています。

 

この辺りの不安感情は先発品メーカーMRと同じですね。

 

つまり、この場合は帳合卸のMS先発品メーカーMRの利害は一致しています。

 

お互いに争う理由は無いので、多くの場合は先発品を守る方向でタッグを組んで活動します。

 

具体的には、A病院の薬剤採用の権限があるキーマンに接触し、何らかの防衛策を打つのが定石です。

 

それ以外だと、調剤薬局にて勝手に後発品に切替えられないように根回ししておく…なんて活動も行ったりします。

A病院の先発品が他社から納められている場合

この場合は、『他社から納められている先発品』を『自社の後発品』に切替えるのがMSの基本戦略です。

 

一言でまとめると攻めの仕事です。

 

実は私自身がMS時代にこの手法を使って自社の売上・利益を伸ばしていました。

 

後発品のリーフレットを配る、頼まれてもいないのに特価の見積もりを作って提示するなんてことは日常茶飯事でした。

 

帳合でない卸、その中でもA病院内での売上シェアが低い卸にとって、後発品の発売タイミングはビッグチャンスです。

 

ライバル卸の売上・利益を減らし、自社の売上・利益をアップさせられる可能性があるからです。

 

帳合卸でない以上、先発品メーカーMRに気を遣う必要はありません。

 

むしろ、指を咥えて見ていたらさらに別の卸が後発品への切替工作を打ってくるでしょう。

 

MSにとって、後発品の発売時はスピード勝負です。

 

ですから、他の卸より先んじてA病院内で後発品への切替工作を行っておく必要があるのです。

 

普段から仲が良くしている後発品MRがいれば、真っ先にそのMRに声を掛けて同行訪問などを行います。

 

後発品MRとしても売上が欲しいので、こういった場合はMSに協力してくれます。

 

よって、この場合は帳合卸でないMS先発品メーカーMRとの利害は一致していません。

 

その反面、後発品メーカーMRとの利害は一致しています。

 

こんな風に、先発品の帳合の有無によってMSが手を組む相手や活動内容は変わってきます。

先発品の帳合卸が自発的に後発品に切替えることもある

仮にA病院が後発品への切替えを推進している病院だとします。

 

その場合、帳合卸のMSが自ら後発品への切り替えを提案することがあります。

 

おいおい、さっきの話と矛盾してるじゃねーか!

 

…と思うかも知れませんね。

 

ただ、こういった場合はMSも苦渋の決断を下しているのです。

 

一介のMSが病院・調剤薬局への後発品使用に口出しするのには限界があります。

 

加えて、MS時代の私のように後発品MRと手を組んで見積もりなどをガンガン提示するようなMSは必ずいます。

 

繰り返しになりますが、後発品の発売時はスピード勝負です。

 

モタモタしていたら他の卸に先を越されてしまいます。

 

こういった場合、帳合卸のMSが率先して後発品への切替えを提案します。

 

例えば、A病院にて卸Aが先発品を納めているとして、その売上が100だとします。

 

この場合、もし他の卸Bが先発品を後発品へと切り替えてしまったら、卸Aの売上はゼロになるワケです。

 

しかし、卸Aが卸Bよりも早く、先発品を後発品へと切り替えたとしたらどうでしょうか?

 

卸Aは売上を100のまま維持することは無理でも、何とか50くらいはキープできるかも知れません。

 

少なくとも、売上が100⇒ゼロという最悪の事態は回避できます。

 

卸Aにとって、売上ゼロと売上50だったらどちらが良いか?

 

当然、ゼロよりも50の方がマシに決まっています。

 

表にすると、こんな感じですね。

 

先発品の帳合を持っている卸が自発的に後発品に切替えるということは、つまりこういった事情があるからなのです。

 

先手必勝。

 

やられる前に、やる。

 

MSにとって、根底にあるのはこういった考え方です。

 

本音を言えば、自社が納めている先発品を後発品に切り替えたくはない。

 

でも、A病院の方針を考えれば、いずれ必ず先発品が後発品に切り替わるときが来る。

 

そうなったとき、他の卸(MS)に後発品の売上を根こそぎ持っていかれるのは避けたい。

 

だったら、傷が浅くて済むように自分から後発品への切替工作を行おう。

 

こんなことを先発品の帳合卸(MS)は考えているのです。

 

当然、先発品メーカーMRからは何てことしてくれてんだ!?…と、文句を言われます。

 

しかし、それも仕方が無いことなのです。

 

MSの給料を支払っているのは医薬品卸であって、先発品メーカーではありません。

 

ある意味、自社の売上・利益を守るためにMRから憎まれることもMSの仕事のうちなのです。

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後発品の市場規模・発売メーカー数によってMSの活動方針は変わるか?


この記事を書くきっかけとなった読者さんからは、このような質問・意見もいただきました。

 

その内容を要約すると、こんな感じです。


500億~1000億ほどの市場規模で、後発品を出す後発メーカーが1社だけだとする。

 

その場合、後発品を作る際に製剤化するのが難しい薬だから、1社しか後発品を上市できないということを意味しているのでは?

 

そういった後発品が発売した後、1社だけの生産だと安定供給や自主回収の懸念があるのでは?

 

そのリスクを考えたら、MSは数ヶ月ほど様子を見た方が良いのでは?


なるほど、そういった考え方もありますよね。

 

一理あると思います!

 

…と言うのが、私の正直な感想です。

(偉そうなこと言ってすいません…。)

 

ぶっちゃけた話、後発品の発売時に製剤化の過程・安定供給・自主回収のことまで考える余裕は無かったです。(汗)

 

では、まず私なりの意見を書こうと思います。

 

私だったら、安定供給・自主回収のリスクなどを考えて後発品への切り替えを躊躇ったりはしません。

 

とにかく、速攻で病院・調剤薬局に後発品への切り替えを提案し行きます。

 

再三のことで恐縮ですが、MSにとって後発品の発売時はスピード勝負です。

 

むしろ、初動によって卸間の勝敗が決まります。

 

ハッキリ言って、ここで後発品の帳合を獲得できるように動かないMSがいるとしたら、そのMSは三流の営業マンです。

 

もし卸AのMSが後発品への切替工作をしないとしたら、間違いなく卸BのMSが隙を狙ってきます。

 

さらに言うなら、卸Aと卸Bがけん制しあっている間に、卸CのMSが水面下でコッソリと切替工作を済ませてしまう…なんてこともあります。

 

実際、私はMS時代に卸Bや卸Cのような形で後発品への切替工作を何度も行いました。

(もちろん、毎回こういった切替工作が上手くいっていたワケではありませんが…。)

 

当時20代だった私のような若造MSですらやっていたことです。

 

中堅~ベテランのMSによる後発品への切替工作ともなると、実態はさらにエグいです。

 

病院・調剤薬局への見積り提示、後発品MRへの折衝、その他諸々、何でもアリです。

 

何が何でもウチの後発品に切り替えてやる!

…という執念すら感じます。

 

いかがでしょうか?

 

脇の甘いMSは徹底的に狙われます。

 

こんなことを書いている私自身も、経験が乏しい新人MSの頃は他卸のMSからよく狙われたものです。(汗)

 

少し話が脱線してしまいましたが、要するにMSは後発品の発売時に隙を見せたらダメだということです。

 

自分がやらないのなら、他卸のMSが必ず後発品への切り替えを仕掛けてきます。

 

後発品を発売するメーカーが1社だろうと10社だろうと、MSがやることは同じです。

 

やられる前に、やる。

 

これがMSにとって基本となる活動方針です。

 

確かに、後発品発売が1社だけの場合は安定供給・自主回収などのリスクについて考えるのは大切です。

 

しかし、それは実際に安定供給が不可能になったタイミング、自主回収になったタイミングで考えたり悩んだりすれば良いことです。

 

下の記事で書いた通り、MSにとって自主回収は嫌な仕事です。

 

製薬会社の都合による自主回収によって医薬品卸のMSは苦しんでいる!

 

ですが、そんな嫌な自主回収よりも、目の前のビジネスチャンスを逃してしまう方がもっと嫌なんです。

 

少なくとも、MS時代の私はそのように思っていました。

 

不確定な未来を理由にして目の前にある後発品への切替チャンスを逃すこと自体、MSとしてはあり得ないことなのです。

念のため例外パターンも紹介します

例えば卸Aとしか取引をしていないA病院があるとします。

 

いわゆる『1社取引』の施設ですね。

 

この場合、卸AのMSはA病院に対して、後発品への切替提案をしない可能性があります。

 

理由としては単純でして、A病院が卸Bや卸Cと取引していない以上、卸Aからすればライバル卸に邪魔されない土俵が出来上がっているからです。

 

ライバル卸が後発品への切替工作をしてこないのなら、卸Aは先発品⇒後発品への切り替えを遅らせるような活動をしたりします。

 

つまり、こういった条件下だと卸AのMSは焦ることなく活動できるワケです。

 

やはり、先発品⇒後発品となってしまうとMSとしては売上・利益が減ってしまいますから、それはそれで避けたいという事情あります。

 

加えて、先発品メーカーのMRとも関りがある手前、表立って動くのが難しいということもありますからね。

 

ただ、この辺りはMSの性格・会社の方針・病院の方針などが絡んできますから、一概には言い切れないところです。

 

ですが、少なくとも『1社取引』の施設であれば、担当MSの裁量で先発品⇒後発品への切り替えを遅らせる、あるいは防ぐといった仕事はやりやすいと思います。

大手の調剤薬局への後発品切替について


一介のMSが大手の調剤薬局に先発品⇒後発品への切替提案をすることはあるか?

 

これも読者さんからいただいた質問です。

 

大手の調剤薬局とは、例えば日本調剤やアイン薬局のようなチェーン調剤のことですね。

 

さて、私なりの回答は『提案すること自体は稀にあるけど、積極的には行わない』です。

 

これは、あくまで私自身のMS経験に基づいた回答です。

 

日本調剤やアイン薬局のようなチェーン調剤は本部が帳合を決めています。

 

例えば、沢井薬品の薬剤は卸Aから、日医工の薬剤は卸Bから買う…といった感じですね。

 

多くの場合、医薬品卸の本社勤務の人間がチェーン調剤の本部の人間に見積もりを提示(入札)し、その結果によって帳合が決まります。

 

平たく言えば『会社 対 会社』のレベルでの案件です。

 

ですから、現場の調剤薬局を担当している一般のMSからしたら、自分の裁量で出来ることは多くありません。

 

例えば、もし安定供給・自主回収などのトラブルが起きた後発品に関して、同種同効品を手配するといった仕事は行います。

 

最近であれば日医工から自主回収の通達が出ましたよね?

 

日医工 12成分15品目「承認規格等に適合せず」自主回収 原因について社内調査中

 

こういった場合、日医工の帳合卸のMSが代替薬として他メーカーの後発品を提案・納品したりすることはあります。

(実際、私自身も経験があります。)

 

しかし、それはあくまで一時的な仕事です。

 

もし調剤薬局側が代替薬として沢井薬品のものを希望したとしたら、基本的には沢井薬品の帳合卸が薬を納めることになります。

 

日医工の帳合卸が行うことと言えば、自主回収の対応と、自主回収後に『状況が落ち着いたら改めて日医工の薬剤を使ってください』と薬局長クラスの人間に依頼することくらいです。

 

こんな事情があるので、一介のMSがチェーン調剤に対して積極的に後発品への切替提案を行うことは殆どありません。


どうせ後発品の帳合なんて『会社 対 会社』で決まる話だし、自分が出る幕じゃない。

自主回収のようなトラブルが起きたときに失礼が無いように対応すれば良い。

チェーン調剤に営業をかける暇があったら、『自分の裁量で売上を伸ばせそうな取引先』のために時間・労力を使おう。


多かれ少なかれ、現場のMSはこのようなことを考えています。

 

つまり、良くも悪くもチェーン調剤とはMS個人の力が通じない取引先なのです。

まとめ:後発品発売の裏ではMS同士での熾烈な競争がある


久しぶりにMS時代の経験などをガッツリ書いてみましたが、いかがでしたしょうか?

 

私自身はMSとして1~2年目くらいの頃は仕事の勝手が分からず、他卸のMSに後発品シェアを奪われてばかりで悔しい思いをしました。

 

その度に当時の上司・先輩からは叱られ、厳しい指導を受けたものです。

 

やられる前に、やれ。

 

狙われる側ではなく、狙う側になれ。

 

新人MSの頃は何度となくこのような言葉を聞かされたものです。(汗)

 

今思えば、これはMSだけでなくMRも含めたビジネス全般に通じる考え方ですね。

 

さて、こういった指導を受けたことでMSとして3年目以降はどうにかコツを掴み、他卸のMSに逆襲する勢いで後発品への切替工作を行っていきました。

 

幸か不幸か、私が当時担当していたエリアでは自社シェアが低かったことから、他卸から納められている先発品を後発品へと切り替える案件は山のようにありました。

 

お陰で先発品メーカーのMRさんからは白い目で見られていましたが、逆に後発品メーカーのMRさんからは結構頼ってもらっていました。

 

このように、MSとMRの関係とは利害の一致・不一致によっていくらでも変わります。

 

これが私なりの回答です。

 

MSが行っている活動の中の一例として捉えていただければ幸いです。

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!


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