JCHOの入札方法変更について地場卸のMSはどう思っているのか?

MSの今後

こんにちは、アラサーMRのヒサシです。

 

先日の日刊薬業にて、地域医療機能推進機構(JCHO:ジェイコー)の入札方法が変更されたとの記事が載りましたね。

 

JCHO、4大卸の談合疑惑で入札方法変更  傘下57病院の医薬品調達、「共同入札」から「個別入札」に

 

全病院における約8,000品目に対して、地場の医薬品卸も入札可能になりました。

 

発端は2019年に発覚した4大卸の談合疑惑ですが、この局面でいよいよ4大卸以外の医薬品卸に売上(利益)アップの機会が巡ってきたというワケです。

 

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担当エリアにJCHO関連の病院がある地場卸のMSにとっては、まさに千載一遇のチャンスと言って良い場面です。

 

その一方で、今はコロナ禍の影響がある状況です。

 

4大卸か地場卸かを問わず、輪番制による影響で薬の配送が追い付かない卸も多いと聞いています。

 

そんな状況でJCHOの入札方法変更が地場卸に与えるインパクトはどの程度のものなのか?

 

その辺りの事情について考察していこうと思います。

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JCHO入札の変更点


日刊薬業の記事を読んでみて、ザックリと要点だけまとめてみました。


・JCHO本部の共同入札ではなく、傘下病院ごとに個別入札する
・品目数は全病院合わせて約8,000品目
・4大卸も入札に参加可能だが、公正取引員会の処分次第で落札後の契約停止あり
・入札は6月中旬頃となる予定
・契約は7月1日スタート
・契約期間は1年または2年(病院ごとに選択する)

個人的な感想ですが、JCHO側が4大卸の入札を(条件付きですが)認めたのは意外でした。

 

てっきり、4大卸はJCHOとは取引が出来なくなるものと思っていましたが…。

 

あくまで現時点において談合は『疑い』であり、『黒』ではなく『グレー』であると考えている…という意味でしょうか?

 

正直、JCHO側の考えを推し測るのは難しいですが、何か事情があるのかも知れませんね。

 

さて、当たり前の話ですが、この条件なら4大卸より地場卸の方が圧倒的有利です。

 

地場卸にとって現状でJCHOに関する売上が『ゼロ』なのだから、入札結果がどうであれ、売上が『マイナス』になることはない。

 

どんなに安値で入札したとしても、粗利が少しでもあれば十分旨味のある取引となる。

 

つまり、地場卸にとってはノーリスクでリターンが見込めるというワケです!

 

…などと、安直なことを最初は考えました。

 

しかし、それは間違いです。

 

少なくとも、ノーリスクとは言い切れない事情は確実に存在します。

 

在庫管理が面倒な品目を落札してしまったらどうするのか?

 

4大卸が契約停止になったら、その契約分が地場卸に流れてくるのでは?

 

そうなった場合、売上(利益)以外の要素はどうなるのか?

 

もしかすると、在庫の見直し・配送ルートやダイヤの変更を強いられるのでは?

 

こんな風に、地場卸側としては手放しで喜べない点も複数あります。

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落札品目の種類によっては地獄が待っている


JCHOの規模であれば、各地の病院で相応の特殊薬を使っています。

 

厳格な温度管理が求められる薬剤。

使用期限が極端に短い薬剤。

返品前提で納品しないといけない薬剤。

1年間で1回使われるかどうかも怪しい薬剤。

 

数えたらキリがありませんが、大体こんなところです。

 

さて、これらの薬剤は在庫管理がメチャクチャ大変です。

 

ハッキリ言って、担当MSからしたら厄介な薬剤ばかりです。

 

例えば、使用期限が短い薬剤について考えてみましょう。


ある地場卸がJCHOへの入札後、使用期限が1年の『薬剤A』を落札したとします。

 

この薬剤Aは緊急薬であり、いつ・どのくらい使うか予想できないタイプの薬剤である。

 

しかし、JCHO側からは薬剤Aは緊急薬なのだから、いつでも納品できるように十分な量を常に在庫しておけとプレッシャーを掛けられる。

 

担当MSは渋々ながら薬剤Aの在庫を営業所内に置くことにしたものの、JCHOからの発注は一向に来ない。

 

そして、いつの間にか1年が経ってしまい、薬剤Aの使用期限が切れようとしている。

 

JCHOに尋ねても、今のところ対象患者がいないのだから、薬剤Aを発注する予定はないなどと足蹴にされる。

 

仕方ないので、薬剤Aの仕入れ先である製薬会社に返品を打診しても、期限切迫品は引き取れないなどと断られる。

 

医薬品卸のMSが返品を嫌うのはなぜ?それは再販するのが大変だからです!

 

結局のところ、使用期限を迎えてしまった薬剤Aを泣く泣く減耗処理し、薬剤Aの仕入金額分が赤字となる。

 

そして、担当MSは上司からメチャクチャ怒られることになる。


いかがでしょうか?

 

これはMS時代に私が実際にやってしまったミスです。

 

正直な話、落札時点ではミスでも何でもない状態だと思っていました。

 

しかし、薬剤Aの特性を知り、なおかつ病院側の発注頻度を考えると明らかに落札しない方が良かった薬剤だと思うようになりました。

 

結果論ですが、使用期限が短いことによってMSが割を食い、そしてミスとして扱われ責任を問い質された事例です。

 

使用期限1つとっても、これだけのハードルが存在するのです。

 

他のネガティブな要素も加味したらハードルはさらに上がります。

 

入札に関わるMSとしては手放しで喜べない事情について、ご理解いただけたでしょうか?

 

ましてや、今回のJCHOの入札では全国で約8,000もの品目があります。

 

MS目線で考えると落札したくない品目は絶対にあります。

 

そんな品目を落札しまったら最後、担当MSは様々なプレッシャーに苦しむことになります。

 

MSの仕事とは、勇み足で入札に参加し、そしてたくさん落札すれば良い…という単純なものではないのです。

そもそも在庫の申請が面倒


今回のJCHO入札などのイベントで営業所にない薬剤を落札した場合、基本的にはMSが在庫申請を行います。

 

医薬品卸によって方法は多少異なるでしょうが、紙ベースまたは社内イントラなどでA剤は常に○○個を在庫、B剤は△△個を在庫する…といった感じで申請書を出します。

 

実はこれ、地味に面倒な作業なんです。

(こんな仕事なんて楽勝だろ?と言うMSもいるかも知れませんが…。)

 

落札品目について病院側に発注頻度を確認したりとか、社内の倉庫係に製薬会社から入荷してくる際のタイムラグを聞いたりだとか、色々な方面に気を遣いながら申請書を書きます。

 

ついでに言うと、申請書を上司に出す際に在庫を置く以上、減耗は絶対に許さないからな!などと釘を刺されます。

 

正直、メチャクチャ気疲れします。

 

落札品目が多いほど、この在庫申請という名の仕事は増えるのです。

 

落札結果が分かった後、MSはこういった仕事をコツコツとこなしています。

 

そして、販売量が増えればその分だけ返品の仕事も増えます。

 

その挙句、減耗品を出してしまったら最悪です。

 

上司からも、倉庫係からも白い目で見られます。

 

つまり、在庫申請とは結果だけ見ればMSが費やした時間・労力が報われない可能性もある仕事なのです。

落札結果次第では医薬品卸の倉庫が圧迫される


地場卸のMSが安値で入札し、その結果たくさんの品目を落札したと仮定します。

 

その場合、在庫関係で苦しむのはMSだけではありません。

 

倉庫係にとっては、在庫管理に関する仕事が増えることを意味しています。

 

新しく契約になった薬剤Aはこの棚に置こうだとか、薬剤Bは倉庫の隅にでも置くしかないだとか、倉庫係は日頃から知恵を絞っています。

 

医薬品卸の倉庫スペースは無限ではありません。

 

よって、倉庫係の人たちは限られたスペースの中で、医薬品の在庫を効率的に管理する必要があります。

 

薬剤AやBだけといった数品目なら、まだ可愛いものです。

 

しかし、C、D、E、F、G、H…といった具合に、ある日を境にして大量の在庫を置くとしたら倉庫がパンクします。

 

特に、輸液のような段ボール箱に入っているようなモノはスペースを食う薬剤の典型例です。

 

さらに、問題は薬を置くスペースだけに留まりません。

 

新しく在庫を置くということは、入庫や出庫の手間も増えます。

 

コンピューター上で在庫の計上を行い、所定の場所に医薬品(在庫)を配置する。

 

これは全て倉庫係の人間の手で行うことです。

 

ましてや、最近は後発品の種類が増えすぎたことで医薬品卸の倉庫が圧迫されています。

 

そんな状況の中でMSが大量の品目を落札してきたとしたら、倉庫係の人はどうなるでしょうか?

 

当然、彼らの仕事量は一気に増えます。

 

地場卸にとって営業所や会社単位で見れば、JCHOの入札に新規参入することは売上(利益)を伸ばすチャンスでしょう。

 

しかし、倉庫係の視点で見ると必ずしも喜べない事態なワケです。

 

特に、MSと倉庫係の仲が悪い営業所では、大なり小なりMS vs 倉庫係のバトルが勃発するのではないでしょうか?

4大卸が契約停止となった場合のリスク


今後の展開は不明ですが、もし4大卸が契約停止となった場合、他の地場卸にはどんな影響が出るでしょうか?

 

ポジティブに考えるなら、売上(利益)を伸ばす絶好のチャンスです。

 

4大卸に発注していた分の品目に関しては、地場卸の帳合になることは必至ですからね。

 

しかし、ネガティブなことを考えるなら先述した在庫関連のリスクが増大するとの見方もできます。

 

さらに、配送のルートやダイヤにも影響が出る可能性だってあります。

 

ある日突然、4大卸が契約停止になったら間違いなく地場卸の現場は混乱します。

 

例えばですが、4大卸の契約停止時にはこんな事態が予想されます。


今までアルフレッサに頼んでいたA剤は、毎朝9:00に納品してね。
今までメディセオと契約していたB剤は、発注したら1時間以内に届けてね。
今までスズケンはC剤の返品をいつでも受けてくれていたけど、お宅の会社もやってくれるよね?
今まで東邦はD剤を月末に100箱届けてくれていたけど、お宅の会社も大丈夫だよね?

こんなことを急にJCHO側から頼まれたらどうなるでしょうか?

 

私がMSだったら、勘弁してくれって思います。

 

MSだって人間ですから、出来ることと出来ないことがあります。

 

ところが、病院の中にはMS(卸)のことを家来か便利屋だと勘違いしている輩がいます。

 

そういった輩に限って、MSが『出来ない』と意思表示すると怒り狂います。

 

まあ、腐っても顧客なのでMSとしては対応する他ないのですが…。

 

病院と卸との間で契約品目が増える陰には、こういったクレームの火種的な問題も存在しているのです。

 

ましてやコロナ禍が続く間は、病院側の希望に沿うような配送体制を組めるかどうかも怪しい。

 

時間指定の発注が増えたら、輪番制にしている卸は間違いなく大変なことになります。

(せめてコロナ禍が無ければ話は違ったと思いますが…。)

 

売上(利益)は別として、この状況で配送量が増えることを喜ぶMSは少数派ではないでしょうか?

まとめ:地場卸のMSを待っているのは天国か?地獄か?


おそらくですが、地場卸の上層部や中間管理職は今回の事態を歓迎しているはずです。

 

しかし、現場のMSにとってはどうか?

 

売上(利益)が増えるのは大いに結構。

 

しかし、配送・在庫・返品に関する厄介ごとは御免だ。

 

こんな風に考えるMSは多いのではないでしょうか?

 

少なくとも、私がMSだったら良いこと尽くしだとは微塵も思いません。

 

繰り返しになりますが、コロナ禍が終息しない状態で薬の物量が増えることを喜ぶMSはまずいないでしょう。

 

何より、これから先は暑い夏が待っています。

 

MSにとっては1年で最も配送の仕事がしんどい時期です。

 

そんな時期にコロナ禍まで加わって、一体どうなってしまうのか?

 

4大卸のMSは勿論のこと、地場卸のMSにとっても試練なのではないでしょうか。

 

今年の夏も大変暑くなると予想されていますので、MSの皆さん体調には気を付けてほしいと思います。

 

2020年12月 追記

何と、JCHOだけでなく公的医療機関も4大卸との取引停止を検討し始めました。

地場卸にとってはチャンスである反面、闇雲に落札品目を増やすと在庫管理や配送などで痛い目に遭いそうです。

JCHOの指名停止措置で大手&地場の医薬品卸に激震!談合問題でまさかの展開か!?

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!


コメント投稿はこちら

  1. すていさむ より:

    いつも楽しく読ませて頂いています。
    私も前職は医薬品卸のMSで現在は医療機器メーカーの営業です。
    今回の内容は特に「うわ。。。あったあったそれ」と思う内容で、当時の苦い記憶が沸々と甦りかなり感情移入して読んでしまいました笑
    これまでの医薬品卸関係のブログの内容もさることながら、リアルさがもの凄く伝わってきました笑
    これからも更新楽しみにしています!

    • ヒサシ ヒサシ より:

      すていさむ さん

      コメントありがとうございます!
      そうですね、今回の記事はMS時代の実体験を盛り込んで書いてみました。

      当時担当していた病院はワガママな薬剤師が多く、何かにつけて無理難題を突き付けられていた記憶があります。(汗)
      ちなみに、私は現在MRとして働いていますが、医療機器メーカーへの転職を考えた時期もありました。

      やはり、卸とメーカーとでは仕事内容&待遇がかなり違いますよね。(汗)
      これからも当ブログを宜しくお願いいたします!

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