こんにちは、元MSのヒサシです。
2022年の12月、アストラゼネカ社が販売しているネキシウムカプセル(一般名:エソメプラゾールマグネシウム水和物カプセル)の後発品が発売されました。
このネキシウムという薬剤はPPIの一種であり、病院・開業医を問わず頻用されている薬でもあります。
そして!!!
このネキシウムという薬剤、2011年に発売した当初から猛烈なスピードで売れていったことを憶えています。
消化器内科を中心として、パリエットやタケプロンといった既存のPPIから切り替わること多数。
アストラゼネカと第一三共によるコ・プロモーションの賜物なのか、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで売上が伸びていったんですよね。
実際、私が当時働いていた医薬品卸でも、ネキシウムへの注力具合は他製品と比べても頭一つ抜けていたように思えます。
かくいう私自身も、MS時代に担当していた開業医(※特に消化器内科)にて、何度この薬をコールしたか分かりません。
そんな経緯もありまして、MS時代に扱っていた【プライマリー医薬品】の中でも、私にとっては特に印象深い薬剤の1つです。
ついでに言うと、後述する“詰め”でも大いに苦しんだ薬剤です!!(汗)
そんなネキシウムも発売から10年以上が経ち、今こうして後発品が発売している様を見ると、何だか感慨深いものがあります。
そこで、MS時代のネキシウムに関する思い出を語っていこうと思いまして、こうして筆を執ってみました。
本当にただの思い出話ですが、その点については悪しからず。
ネキシウムの予約受注はマジで大変だった
繰り返しになりますが、ネキシウムは2011年に発売したPPIです。
当時の私は、新人MSとして日々奮闘していたのですが…
このネキシウムという薬剤の発売を通じて、私はこの業界の“洗礼”を浴びたように思えてなりません。
ネキシウムに限った話ではありませんが、MSはプライマリーの新薬発売時に『予約受注』と呼ばれる業務を行います。
MSによっては、予約受注を略して“予注”と呼ぶ人もいます!
これは簡単に言うと、MSが取引先に赴いて『新薬が発売する際、その薬を発売日に納入させてもらうように交渉すること』を指します。
取引先とは、具体的にはMSとの関係性が強い開業医や調剤薬局ですね。
そういった施設の責任者(院長や薬局長)に対して、新薬の発売日に即納入となるように依頼するのです。
早い話、このブログでも幾度となく記事化してきた『詰め込み販売(通称:詰め)』の一種というワケですね。
医薬品卸のMSを苦しめる『詰め込み販売』とは?元MSが業界内の悪習を暴露します!
他の記事でも述べていますが、私はこの“詰め”が大嫌いです。
当然、その一種である予約受注も大嫌いです。
MSを辞めた今でも大大大っっ嫌いです。
マジで医薬品業界の悪習だと思っていますし、1日でも早く廃れるべきだと心底思っています。
まあ、そんな私の個人的な感情はさて置き…
ネキシウムに関しては、それはもう膨大な予約受注軒数のノルマを課されたことをよ~く覚えています。
具体的な軒数は忘れましたが、とにかく無理ゲーと言わざるを得ない程の軒数であり、外勤先で途方に暮れていましたので。(汗)
そもそも当時は新人MSということもあり、予約受注のノウハウもロクに分からないまま駆けずり回っていました。
…で、自分に課されたノルマ分の予約受注軒数をどうしてもクリアできず、第一三共のプロモーター(先輩MS)からも叱責されるという体たらく。
そんなこんなで、ネキシウムの発売日前後は、出社するのが憂鬱になるレベルで凹んでいました。
あの頃は、精神的に辛い毎日を過ごしていたなぁ…(遠い目)
なぜここまで予約受注で苦戦したかと言うと、それは私自身の力不足以外に、他卸もネキシウムの予約受注に必死だったことが大きく関わっています。
他卸の中堅MSやベテランMSを含め、ありとあらゆるMSが我先にと言わんばかりの勢いで予約受注に走っていましたからね。
こういった予約受注って、椅子取りゲーム的な側面があると言いますか、要するに早い者勝ちなんですよね。
例えばですが、複数の卸と取引しているA薬局があるとします。
このA薬局でネキシウムの予約受注を行う場合、A薬局にとっては複数の卸からネキシウムを買う理由が無いのです。
すぐに処方箋が来るワケでもなければ、すぐに開封されるワケでもない。
よって、今すぐに買う必要はない。
これはA薬局からすれば至極真っ当な主張です。
薬局として、無駄な在庫を抱えるのは避けたい。
そんなこと、ぶっちゃけ当たり前の話ですからね。
従いまして、薬局側としてはMSからのお願いに応じる義務など無いのです。
いくらネキシウムが注目のPPIだからとはいえ、こういった姿勢を崩さない取引先(特に調剤薬局)は多かったです。
新薬の発売時、こういった現象が起こるのは珍しくないのです…(汗)
定期的にネキシウムの“詰め”を強要される日々
ネキシウムの発売日以降も、会社から課される【施策】により、私は幾度となくネキシウムの“詰め”を行いました。
特に、2012年にネキシウムの長期処方が解禁されて以降の“詰め”は半端じゃなかったです。
そして忘れてはいけないのが、全国各地のMSが等しくこの状況に晒されていたという点です。
“詰め”のために必死なのは、自分だけじゃやない。
“詰め”を完遂できないと社内で怒られるのは、他社のMSも同じ。
こんな構図がありましたため、月末近くになると様々な開業医&調剤薬局でネキシウムの“詰め”が頻発しました。
そして、私はと言うとネキシウムの“詰め”が上手くいかず、依然として社内では肩身が狭い思いをしていました。(汗)
“詰め”を遂行できない人間はMSに非ず、みたいな雰囲気が社内では漂っていましたので…(汗)
私はMSだった頃、自社のシェアが低いエリアを担当していました。
そういった経緯もあり、ネキシウムは他卸から納入されてしまうパターンが殆どでした。
先ほどお伝えした予約受注よろしくといった感じで、要するに【帳合】を奪い合いにおいて、私は他社MSに競り負けていたワケです。
結果的に、アストラゼネカや第一三共のMRたちも他卸の味方をするのが通例でした。
まあ、それは私がMSとして力不足であったことが最大の要因なのですが…
だからといって『ネキシウムを売らなくても良い』という理由にはならないのがMSの辛いところです。
繰り返しになりますが、ネキシウムは各卸にとって最注力品目と呼んでも過言ではないくらいの扱いを受けていました。
当然ながら、会社からの『ネキシウムを売ってこい!』という圧力は並大抵ではありませんでした。
おいおい、この施策を考えた奴は頭がイカれているのか?
…って思うくらい、営業所単位でも、個人レベルでも、グロス・軒数ともに尋常じゃないノルマを課されていましたので。(汗)
会社としてあれ程までに力を入れていたのですから、おそらく【アローアンス】の金額も凄まじかったはずです。
そんなアローアンス獲得のための代償が、末端で働くMSへの負荷だったのだと、MSを辞めてから数年が経った今では感じています。
毎月のように、開業医や調剤薬局に赴いて、ネキシウムの“詰め”をお願いする日々。
もちろん、ネキシウム以外にもMSとして“詰め”の依頼をしていた品目は沢山あります。
しかしながら、ネキシウムの“詰め”だけは、何と言うか次元が違いました。
消化器内科に留まらず、糖尿病内科、一般内科、肛門外科、泌尿器科といった開業医。
そして、それらの門前にある調剤薬局。
さらには、特定の処方元がない面調剤。
挙句の果てに、医薬品の定期購入がある老健施設まで。
当時担当していた各施設で、一度でもネキシウムの納入履歴があれば、その施設ではダメもとで“詰め”の交渉を行うが日常業務と化していました。
そして、その度に私はこう思いました。
この“詰め”という慣習は馬鹿げている、と。
第一三共MRからの手厳しい追及
繰り返しになりますけど、ネキシウムが発売した当初、ネキシウムはアストラゼネカと第一三共がコ・プロモーションしていました。
(※上記2社のコプロ契約は2021年に終了しました。)
ネキシウムに関して言うと、私の場合、アストラゼネカMRよりも第一三共MRと絡む機会が多かったのですが…
私が担当していたエリアの第一三共MR(30代)は、性格がキツめの人だったんですよね。
私がMS時代に関わったMRさんたちの中でも、かなりアクが強い方だったと思います。
とりわけ、月末の“詰め”では何かと高圧的な物言いをされたものです。
…みたいな感じで、MSにプレッシャーを与えることに長けていた印象があります。
月末に電話が掛かってきたかと思えば、とにかく“詰め”に関して手厳しい追及を受けること幾十回。
正直に言うと、私はこの第一三共MRのことが好きではありませんでした。
…と言うか、ぶっちゃけ大嫌いでした。
どうも鼻につく感じがすると言うか、こちら(MS)のことを見下しているのが透けて見えるような人だったので。
月末最終日のクソ忙しいタイミングで、面と向かって『詰めの状況はどうですか?』なんて図々しく尋ねてきた時は、怒りを堪えるので大変でした。(汗)
月末最終日に卸訪問するMRはMSから嫌われる!?MS時代の本音を暴露します!
当時20代の前半~中盤くらいだった私は、あの第一三共MRから見れば青二才もいいところだったことでしょう。
そんな年齢差もあってか、向こうからすれば、私はのような若造は、色々と要求を言いやすいMSだったのだと思います。
しかし、ここでMRの意見を無視できないのがMSという職業の世知辛いところ。
私の個人的な感情なんかとは関係なく、一介のMSがネキシウムの“詰め”から逃れる術など無かったのです。
会社として施策が組まれていることも相まって、私は渋々ながらも第一三共MRの言う通りにするのがお決まりのパターンでした。
嫌いなMRのために“詰め”を行うことほど、MSにとって不愉快なことはない!!
しかし、今にして思えばですけど、あの第一三共MRも大変だったのだと思います。
今では私もMRとして働いているからこそ分かるのですが、MRの上司によっては途轍もなく数字の追及が厳しい人もいます。
数字が未達で終わろうものなら、月初の営業所会議で吊し上げに遭います。
上司からの評価を気にするタイプのMRであれば、それはもう不本意な展開というワケですね。
第一三共の社風と言いますか、内部の雰囲気についてはぶっちゃけ分かりませんけど…
私が嫌っていた第一三共MRは、もしかしたら上司からの圧力に耐えかねて、私に“詰め”の依頼を行っていたのかもしれません。
最後に:やっぱり“詰め”は医薬品業界の悪習だと思う
ネキシウムの“詰め”に関して、第一三共プロモーターをやっていた先輩MSとは何度も衝突しました。
自社のシェアが低いエリアで、一体どうしろと言うのか。
取引がある施設の方が少ないような状況で、どうやって“詰め”をやれと言うのか。
おまけに、第一三共のMRは非協力的ときた。
これだけ不利な材料が揃っているのに、その点を勘案することなく自分に“詰め”の指示を出すのはおかしい!!
こういった怒りの主張を展開する私に対して、先輩MSもまた憤慨していたようです。
そりゃそうです。
もし誰かが“詰め”をしくじったのなら、他のMSが穴埋めのために別途“詰め”を行うのですから。
そして、そういった役回りはプロモーターに課されることが多いのですから。
営業所として課されたネキシウムのノルマを達成するのは必須事項であり、未達という結果に終わるのは到底許されないことです。
そういった意味では、第一三共プロモーターをやっていた先輩MSからすれば、“詰め”を行えない理由を並べる私のようなMSは憎々しい存在だったことでしょう。
あの時の自分の態度について、今では反省しているのですが…
それでもなお、当時の状況は理不尽極まりないものだったと思っています。
…とまあ、MS時代の記録を辿りながらこの記事を執筆してみたワケですが、改めて実感したことがあります。
それは、医薬品の“詰め”とは“業界の悪習”に他ならないということです。
知っていましたけど、この機会に再確認しました!!
大体にして、“詰め”というのは顧客に負担を強いる行為です。
不必要な薬を、必要以上に買わせる。
それも、医薬品卸や製薬会社の都合によって…です。
顧客である医療従事者も、最終的に薬を飲む患者も、決して喜びやしないのです。
それなのに、ネキシウムが発売してから特許が切れるまでの約10年間、この“詰め”は変わらずに行われてきました。
こんな馬鹿馬鹿しい商習慣があるから、顧客側は増長し、MS(卸)に対して無理難題を突き付けるようになってしまった。
私には、そのように思えてなりません。
MS時代に体感した“厄介な取引先”の特徴5選!彼らの悪意に振り回されてはダメだ!
なぜ医薬品卸の社員は顧客のことを『得意先』と呼ぶのだろうか?
“詰め”が出来るMSは素晴らしい!
そんな風に称賛される文化がある限り、この業界から“詰め”が消えることは無いのでしょう。
誰もがおかしいと気付いているのに、誰もが逆らえない業務と化している“詰め”。
だからこそ“悪習”と呼ばざるを得ないと思う、今日この頃です。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
コメント投稿はこちら
私は1993から2000年までスズケンで勤務してました。
新薬発売日に取引薬局さんに1ヶ月だけ預かりで良いからとお願いしたなぁ
懐かしいそして苦しい思い出が蘇りました。笑笑
でもその当時の苦しみが今の人生に役立っているなぁとも思えます。
今後も更新楽しみにしておりますね。
タカシさん
コメントありがとうございます!
1993年~2000年と言うと、平成の序盤頃ですね。
当時から“詰め”は存在していて、幾人ものMSたちを苦しめてきたと。
そして、今もなお現役MSたちが“詰め”によって苛まれている事を考えると、やはり業界の悪習は連綿と受け継がれているのですね。
その賜物なのか、私自身もメンタルは鍛えられたという手応えを感じています。
…が、MSを辞めてからそれを実感するとは、何とも皮肉なものです。(汗)
また当ブログを覗きに来てください!