こんにちは、元MSのヒサシです。
今回は医薬品卸の悪習である『詰め込み販売』という行為について記事を書いてみました。
さて、この記事を読み進める前に、読者の皆さんにお伝えしたいことがあります。
私はブログ内にて、中立かつ客観的な視点から記事を書くことを心掛けています。
…が、今回のテーマである『詰め込み販売』には嫌な思い出が多過ぎて、この記事の中ではメチャクチャ主観的なことばかり書いています。
個人的なバイアスが相当入っている記事に仕上がっていること間違いなしです。
その一方で、MS時代に感じていたこと・思っていたこと・そして現在の気持ちなどを含めて、本音をぶちまけています。
…ということで、早速ですが持論を述べたいと思います。
『詰め込み販売』は『悪習』です!!
誰が何と言うと『悪習』です!!
私がここまで『詰め込み販売』を否定する理由については、後ほど詳しく解説します!
今の私はMSでもなければ、医薬品卸の社員でもありません。
『詰め込み販売』とは無縁な領域のMRとして働いています。
…にも関わらず、『詰め込み販売』という言葉を聞くたびに吐気がします。
医薬品卸の管理職・上層部に対して、これだけは伝えたい。
令和という新時代において、この腐ったビジネスモデルをこの先も続けるつもりなのか?
現場のMSがどれほど疲弊しているか知っているのか?
自分たちも『詰め込み販売』をしてきたのだから、若い世代も『詰め込み販売』に励むべきだ!!
…などという、お門違いなことを考えていやしないか?
もしそうだとしたら、その考え方そのものが医薬品卸を蝕む”ガン細胞”のようなものですね。
こんな狂った商習慣があるから、若いMSは医薬品卸に失望して辞めていくのです。
私もそうですが、私の先輩・後輩にも『詰め込み販売』に嫌気が差して辞めたMSが複数います。
ここまで美点が見当たらない業務は中々ないと思いますよ?
マジで。
…ということで、私がMSだった頃の経験談を交えながら『詰め込み販売』の実態を語っていこうと思います。
(※これ以降の文章では『詰め込み販売』を『詰め』と略して書いています。)
全国のMSを苦しめる『詰め』の存在
このブログ内で幾度となくお伝えしてきた通り、私は元MSです。
そのMS時代を振り返ってみて、MSとして行ってきた全ての業務の中で『詰め』が一番嫌でした。
【急配】や【返品】も中々しんどい業務でしたが、今振り返ってみると『詰め』の方が断然辛かったです。
とにかく、この『詰め』とは現場のMS(営業)を心身共に苦しめる業務なんですよ。
ぶっちゃけた話、私がMSという職業を辞める決断した理由の1つでもあります。
元MSの本音!医薬品卸のMSを辞めたいと思った理由について語る!
本当に、イヤでイヤで仕方ありませんでした。
そのくらいMSにとって苦痛かつ大変なのが『詰め』です。
では、なぜ『詰め』が苦痛なのか?
『詰め』とは早い話、取引先に必要以上の薬を『無理やり買わせる行為』だからです。
例えば、Aという医薬品を毎月100錠だけ買う調剤薬局があるとします。
そんな調剤薬局にMSが赴き、
Aを500錠買ってください!!
…などと頼むのです。
調剤薬局からすれば、Aを500錠も買う必要は全くありません。
だって、毎月Aを100錠ずつ買えば事足りますからね。
そもそも、一気に500錠も買ったら購入金額が膨らむし、薬剤棚のスペースだって圧迫される。
つまり、調剤薬局にとっては一切メリットがありません。
しかし、MSは会社の指示で『詰め』を行っています。
調剤薬局側がNGを出しても、そう簡単には引き下がれない。
よって、調剤薬局側が『Aを500錠買います』と言うまで、MSはひたすら頭を下げます。
場合によっては菓子折りを持ってご機嫌取りをしたり、上司を連れて行って一緒に頭を下げたりします。
手を変え品を変えアタックしてくるMSに対して、いよいよ調剤薬局側が根負けして、不本意ながら医薬品卸からAを500錠買うことになる。
MS目線だと、この状態に辿り着いてようやく1軒分の『詰め』が成功したというワケです。
正味な話、精神的な疲労感が半端じゃありません!(汗)
いかがでしょうか?
営業する側として、顧客が望まないものを無理やり売りつける。
この苦痛たるや、マジで並大抵ではありません。
MSはこういった『詰め』を毎月のように繰り返しているのです。
特に月末になると、営業所内で『誰が・何を・どの取引先で・どのくらい詰めるか?』…といった会議が行われます。
(※MS時代の私はこの『詰め会議』の直前になると、毎回必ず腹痛が起きるくらい病んでいました。胃腸科内科に相談しに行ったら過敏性腸症候群だと言われました。)
そして、営業所内での取り決めに従い、MSは『詰め』を行うべく東奔西走するのです。
文章で書くと簡単な行為に見えるかも知れませんが、実際には取引先からメチャクチャ嫌な顔をされます。
私がMSだった頃、こんな辛辣な言葉を何十回、いや何百回も浴びせられました。
でも、会社から『詰めてこい!』と指示された以上、MSはその指示に従わなければなりません。
取引先から蔑まれ、罵られ、見下され、それでもMSは仕事をやり遂げないといけない。
だから辛いのです。
新薬・後発品の発売時こそ『詰め』の真骨頂!!
新薬の発売時、医薬品卸のMSは血眼になって取引先に新薬を買わせます。
取引先が自発的に新薬を買うのではありません。
MSが取引先に買わせるのです。
業界内では『新薬の配置販売』『新製品を取引先に置く』『予約受注を取る』などと表現されますが、こういった新薬発売時の配置販売も『詰め』の一種です。
予約受注を略して“予注”と呼ぶMSもいます!
この予約受注なる業務ですが、顧客である医療従事者からは嫌厭されるのが通例です。
これは私自身の実体験ですけど、例えばですが、PPIの一種であるネキシウムカプセル。
この薬が発売した時なんかは、それはもう詰めるのに苦労したものです。
上記のネキシウムに限った話ではありませんが、プライマリー領域の新薬に関して言うと、その薬が発売日に処方されるのは稀です。
内服タイプの新薬なんて、クリニックでは14日分しか処方できませんし。
付け加えると、医者だって未知の副作用を恐れて中々使いたがらない。
開業医の場合、よほど画期的な新薬でなければ発売日に即日処方とはならないでしょう。
病院に至っては薬審を通す必要がありますから、発売日当日に新薬が使用される可能性は限りなくゼロ。
つまり、医薬品卸のMSは処方⇒開封とならない可能性の方が圧倒的に高いことを承知しているのです。
…にも関わらず、業界内では『詰め』が横行しています。
この『詰め』の指示を出している大元がどこの誰なのかは分かりません。
むしろ、知っている人がいたら教えてください!
製薬会社や医薬品卸の上層部同士の目論見や、発売初日の新薬シェアやグロス等々。
さらには【施策】やアローアンスといった様々な要素が絡み合い、結果として『詰め』の指示がされていると言われています。
ついでに言うと、医薬品卸の株主からの圧力も影響しているかも知れません。
…が、『詰め』の本当の元凶が誰なのか、そんなことは末端のMSにとっては知る由もないことです。
むしろ、新薬発売時は『詰め』のプレッシャーが強すぎて、本社や上層部の考えを推し測る余裕なんてありません。(汗)
現場のMSは上司から指示された軒数・金額を目指して、ひたすら詰めるのみです。
これは新薬だけでなく、後発品が発売するときも同様です。
毎年6月と12月には多くの後発品が発売されますが、このタイミングにおいても全国各地で膨大な数の『詰め』が行われています。
2020年6月発売の後発品ラインナップが鬼畜すぎる!これで配置販売とか無理ゲーでは?
医薬品卸のMSが後発品の発売時に行う活動とは?【読者さんからの質問】
こういった『詰め』の結果、全国各地の取引先(特に調剤薬局)にて、様々な後発品メーカーの薬が在庫として計上されたはずです。
後述しますが、そうやって詰め込まれた薬はいずれ返品処理されるのがオチです。
医薬品卸の本社も現場も、いずれ返品になると分かっている。
それなのに、こういった『詰め』が横行している。
誰もがおかしなことだと気付いているのに、勇気を持ってそれを指摘した人間は後ろ指を指され、社内で冷遇される。
これが『悪習』でなければ何でしょうか?
『詰め』の反動が『返品』に現れる
取引先にも決算や棚卸といった、いわゆる『在庫を絞るイベント』が存在します。
そんなとき、医薬品卸への返品対象として真っ先に挙がるのが『詰め』によって無理やり買わされた医薬品たちです。
普段から回転している医薬品であれば話は別ですが、新薬・後発品などには返品の影響があからさまに現れます。
処方箋が来ることもなく、未開封のまま数ヶ月ほど放置された哀れな医薬品。
こんな医薬品は取引先にとって『不要な在庫』でしかありません。
よって、詰められた医薬品は高確率で医薬品卸に返品される運命を辿ります。
この展開がですね、MSの精神をゴリゴリと削りに来るワケですよ。
MSにとって、返品処理はメチャクチャ嫌な仕事の1つですからね。
(※返品にまつわるイヤらしさは上の記事に詳しく書いてあります!)
医薬品卸のMSが返品を嫌うのはなぜ?それは再販するのが大変だからです!
時間と労力を要するくせして、1円の利益にもならない業務。
それが返品の処理作業なんですよ。
この返品の仕事は『詰め』と切っても切れない関係であり、だからこそ『詰め』はMSのメンタルに容赦なくダメージを与えるときた。
『詰め』を頑張った分だけ、早ければ翌月、遅くとも半年後くらいには『返品』の山を相手にすることになる。
いくら努力して詰めたところで、それは自分の首を絞めることにしかならないのです。
生産性という意味では、甚だ疑問な業務内容です!
いかがでしょうか?
この『詰め』⇒『返品』というコンボにおける虚しさは半端じゃないです。
個人的な意見ですが、この虚しさへの耐性の有無が、MSとして長年働けるかどうかの1つの分かれ目だと思います。
ちなみにですが、こんな文章を書いている私自身は“詰めの虚しさ”に耐えられなかった側の人間です。(汗)
医薬品卸における『詰め』の功罪
『詰め』業界内では悪名高い行為である反面、医薬品卸が存続していくためには避けられない行為でもあります。
例えるなら『必要悪』とでも呼ぶべき商習慣です。
ここまで何度も述べてきた通り、『詰め』は現場のMSにとってはアホらしい行為です。
しかし、その一方で医薬品卸という会社目線で考えてみると旨味のある行為でもあるのです。
その旨味の源泉が『アローアンス』です。
では、アローアンスとは何なのか?
簡単に言うと、アローアンスとは製薬会社から医薬品卸へと支払われる『報酬』です。
このアローアンスは医薬品卸にとって重要な収入源(利益)の1つであることから、何が何でのゲットしたいのです。
(※アローアンスについて詳しく知りたい方は、下の記事をご覧ください!)
製薬会社が医薬品卸に支払う『アローアンス』とは?医薬品業界の真実をお伝えします!
極端な話、このアローアンスの中からMSの給料が支払われています。
いや、MSだけではなく、事務職・薬剤師職・倉庫係・配送職など、医薬品卸のあらゆる職種の人間はアローアンスがあるからこそメシを食べられれているとも言えます。
MSにとっては嫌な仕事である『詰め』ですが、この『詰め』があるからこそ医薬品卸が会社として成り立っているのです。
そう考えると、『詰め』とは負の側面だけでなく、正の側面も持ち合わせていることをご理解いただけると思います。
…とはいえ、先述した“負の側面”を一身に引き受けるのはMS(営業職)ですけどね…(汗)
医薬品卸は『詰め』の商習慣から脱却できるのか?
医薬品卸が『詰め』を行う根底には、アローアンスの存在があります。
これは裏を返せば、『詰め』を行わなくてもアローアンス(利益)を獲得できれば、無理に『詰め』を行わなくても良いとも言えます。
MSが『詰め』を行わなくても良い医薬品卸。
それなら、全てのMSが月末・期末に苦労せずに済みます。
ああ、なんと素晴らしいことでしょうか!!
…などと、そんな妄想を巡らせていた時期が私にもありました。
…ということで、現実はそんなに甘くありません。
医薬品卸だけに、文字通り『そうは問屋が卸さない』というヤツです。
医薬品卸にとって、現場のMSに負荷を掛けようが何をしようが、とにかくアローアンスが欲しいのです。
それが例え、雀の涙ほどのものだとしてもです。
この数年間、製薬メーカーから医薬品卸へのアローアンスは減る一方です。
2019年にベーリンガーが医薬品卸へのアローアンスを減らすことを公表したことがありましたが、それはあくまで氷山の一角に過ぎません。
ベーリンガーが医薬品卸へのアローアンスを減らそうとしている!?
水面下では他の製薬メーカーも医薬品卸へのアローアンスを削りに削っています。
よって、医薬品卸にとっては冬の時代が現在進行形で続いています。
だからこそ、医薬品卸は昔以上に『詰め』を頑張って、獲れるアローアンスを確実に獲っていこうとしているのです。
ただ、この商習慣がジリ貧なことは誰の目からも明らかです。
この状況を打破するために、各医薬品卸は様々な取り組みを行っています。
私がMSだった頃は、特定の医薬品・医療材料の市場状況を調査し、その調査内容に応じてアローアンスが支払われるといった企画を経験したことがあります。
ここ最近であれば、スズケンによるスペシャリティ医薬品に特化したビジネスなども該当するでしょうか。
これもまた、見方によっては『詰め』ではない手段によって、アローアンスを獲得しようとしている戦略の1つと言えるでしょう。
ノバルティスの『キムリア』はスズケン1社流通!この戦略の意味とは?
ゾルゲンスマの国内流通はスズケンが受託!スペシャリティ医薬品に特化したビジネスの真骨頂か?
こういった各社の試みについて、どこまで成功するかは未知数です。
しかし、少なくとも『詰め』に頼ったアローアンス狙いの考え方では看板倒れです。
現場のMSが辞めていく遠因となり、会社として立ち行かないことにも繋がる。
『詰め』から脱却して、新しい方法でアローアンス(利益)を得ていくスタイルを模索・確立する。
これこそが、医薬品卸が令和の時代を生き抜くために必要なことだと思います。
どこの卸も、昔ながらの商習慣から脱却しようと藻掻いているのです!
コロナ禍でも『詰め』を行っている…だと?
この記事を書いているのは2020年7月冒頭ですが、コロナ禍は今のところ終息したとは言えない状況です。
そんな中であっても、3月~6月に全国各地で多くのMSが『詰め』を行ったと聞いています。
コロナ禍で営業活動を自粛し、場合によっては輪番制にして取引先に貢献しようとした医薬品卸は複数あります。
その一方で、MSに『詰め』を行うような指示が流れていた医薬品卸が存在するのも事実です。
会社からの指示が無い限り、MSが自発的に詰めることは考えにくい。
…であれば、必ず『詰め』を指示した人物がどこかにいるはずです。
それが会社の上層部からの指示なのか、それともMSの上司である管理職の独断なのか、真実は分かりません。
しかしながら、コロナ禍であっても『詰め』を強要される雰囲気が漂っていたとするならば、それは医薬品卸の利益状況が火の車だったということの証拠でもあります。
社員の健康よりも、会社としての利益を優先しているって事か…
何としてでもアローアンスが欲しい。
だから仕方なく、現場で働いているMSに『詰め』の指示を出した。
そして、会社からの指示に従い、コロナ禍と呼ばれる未曽有の事態であっても『詰め』を行ったMSがいる。
こういったMSがいるからこそ、医薬品卸は会社として成り立っている。
こういったことを考えると、心の中が不快感で一杯になります。
『詰め』を行ったMSに対してではなく、『詰め』に依存しているビジネスモデルに対して不快感がこみ上げてくるのです。
そして、実際に『詰め』を行っているMSの気持ちを考えると、やりきれない気分になります。
こんな仕事の実行部隊を務めたMSの皆さんは、本当に偉いと思います。
もし私が今でもMSで働いていたとして、会社(上司)からの『詰め』の指示を完遂できたかと考えると、正直言って自信がありません。
最後に:医薬品業界から『詰め』が消えることを祈る!
私がMSとして働いた5年間の中で、最も辛く、最も苦しい業務。
それは間違いなく医薬品の『詰め』でした。
繰り返しになりますが『詰め』は『悪習』です。
少なくとも、私自身はそのように考えています。
この持論は一生涯、変わることはないと思います。
もちろん、医薬品卸がアローアンス(利益)獲得のために必要な行為だということも理解しています。
しかし、そういった理屈では納得できないくらい、不快感の方が圧倒的に勝っています。
『詰め』から逃れたい。
『詰め』という言葉を聞きたくない。
『詰め』なんて悪習は消えてしまえばいい。
MSだった頃、私は毎日のようにこんなことを考えていました。
そして、MSを辞めた今ですら『詰め』という言葉を聞く度に不快感がこみ上げてきます。
まあ、こんな私の個人的な感情はさて置き…
『詰め』に嫌気が差しているMSは数多くいるのは事実です。
その証拠に、MS時代の同僚と話すと『詰めがキツい』と漏らす人間ばかりです。
とにかく、全国のMSを苦しめるこの悪習が1日でも早く廃れることを祈っています。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
コメント投稿はこちら